ブンデスが世界最高の観客数を誇るわけ 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(3)

瀬田元吾

日本の参考になるドイツのスタジアム

ESPRITアリーナのVIPラウンジ。内装をスポンサーの家具会社が手掛けており、VIPラウンジ自体がプレゼンスペースになっている 【写真:フォルトゥナ・デュッセルドルフ】

 これから日本にも多くのスタジアムが新築、改築されていくことが予想されるが、ワールドカップが行えるような収容人数4万人超えのスタジアムではなく、身の丈にあった、効率的でかつ魅力的なスタジアムを作ることが望まれる。今シーズンのブンデスリーガでは、実に8クラブが収容人数3万5000人以下のスタジアムをホームとしている。レバークーゼン(ベイアリーナ)やアウグスブルク(WWKアリーナ)やボルフスブルク(フォルクスワーゲンアレーナ)のようなクラブが使用する収容人数3万人規模のスタジアムが参考になるのではないか。どこもサッカー専用スタジアムであり、またVIPルームやVIPラウンジも完備された、最新型のスタジアムである。

 また、エッセン市に12年に新設されたスタジアムエッセン(総工費約42億円/当時レート)は、非常に興味深いスタジアムなので紹介したい。ここをホームスタジアムとして使用しているのは、現在ドイツ4部リーグに所属するロートバイス・エッセンと、かつて安藤梢選手も所属した女子ブンデスリーガ所属のSGSエッセンいうクラブだが、このスタジアムの特徴は、完成した時点で3段階の増築が計算されているという点である。

 現在はメーンスタンド、バックスタンド、それぞれのゴール裏の4つのスタンドに分かれている形で、合計約2万人を収容することができるが、今後、ロートバイス・エッセンが3部、2部と昇格をしていくことで、それぞれのスタンドをつなぐ形で角の部分に増築することができるのだ。予定では第2段階で5500席を増やしたのち、最終段階で約3万5000人収容まで増やすことができる。世界的に見ても、このように最初から3段階の増築を計算に入れたスタジアムというものは、非常にまれなのではないだろうか。メーンスタンド側には奇麗なVIPラウンジも作られており、また車の駐車場もすぐ近くに十分確保されている、非常に使い勝手の良いスタジアムだ。

Jリーグが考えるべきスタジアムの影響力

 16年J1リーグの平均観客数は約1万8000人となったが、収容率で80%を超えたクラブは、川崎フロンターレのみ(年間平均約2万2000人)であった。平均観客数でトップを記録した浦和レッズは約3万7000人となったが、使用している埼玉スタジアムが大きいため、収容率は60%に満たない数字となった。

 Jリーグがより魅力的なスポーツイベントになっていくためには、収容人数4万人を超えるスタジアムを使っているクラブは例外としても、例えば2万〜4万人規模のスタジアムを使用しているクラブは、収容率80%を目指すことが必要であろう。これは今年の川崎が達成しているだけでなく、15年には松本山雅FCや湘南ベルマーレも達成している数字なので、非現実的な数字ではない。そしてその理想を達成するためには、ブンデスリーガのシーズンチケットの割合を参考にすると、48%(80%×60%)をシーズンチケットで販売することが望ましい。決して簡単なことではないが、そうすれば、アウェーのサポーターと当日券の販売数も合算することで、おのずと80%を達成できるようになるはずである。

 逆に考えると、自分のクラブが集客できるであろう観客数をリアルに算出したうえで、新しいスタジアムを作るときのサイズ(収容人数)に反映させることができれば、自ずとどれくらいのスタジアムが自分のクラブに適しているかを把握することができるようになるかもしれない。スタジアムの稼働率が80%を超えるということは、プレーする選手にとっても、応援するファンにとっても、そして支援するスポンサーにとっても、大きなプラスの効果を生むはずだ。選手のモチベーションは上がり、サポーターがリピーターとなることは、Jリーグの試合が1つのスポーツイベントとして、より魅力的で商業価値のあるものとなり、さらに広告を出す価値があるものと判断される大きな要因にもなるはずだ。スタジアムが持つ影響力を、作る前にいかに考えるか。それが成功のカギになるのかもしれない。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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