愛の迷いを乗り越えて。イラプト 「競馬巴投げ!第133回」1万円馬券勝負
「きったない字の手紙書きやがって」てなことは八代亜紀は言わない
[写真3]シュヴァルグラン 【写真:乗峯栄一】
「♪(夜汽車で書いたあなたからの手紙)文字の乱れは線路の軋み? 愛の迷いじゃないですか?」と八代亜紀は歌う。「きったない字の手紙書きやがって。まさか列車の震動のせいにするんじゃないやろなあ」てなことは八代亜紀は言わない。
この曲をテーマに「花王・愛の劇場」(古いなあ)ではドラマまで作られた。
最近は殆ど見なくなったが、昔は街角、街角にクリーム色した雨宿り小屋のような公衆電話ボックスがあった。小雨に濡れる男は、何度かその前を行きつ戻りつしたが、意を決したように取っ手を引く。
「いま、新宿百人町の公衆電話だ。いまから北へ行かないといけない。……お前には、お前には苦労ばかりかけた、幸せになってくれ」
それだけ言い残して男は雨の中の雑踏に飛び出す。夜汽車に乗ってうずくまる。津軽海峡を越えるころには、小糠雨はすっかり吹雪になっていた。
男は渡世の義理からある男を殺し、長い服役のあとシャバに出てくる。飯場近くの食堂で明るく働く女の子と心が通い、2年間一緒に暮らす。影を負う竜崎勝(元フジTVアナウンサー高島彩のお父さんらしい)と、泣いているような瞳でいつも作り笑いする松本留美、こんな二人の恋が成就する訳がない。ある日、自分が手を掛けた男が留美の兄だと知った竜崎勝は唇を噛み、そっと出ていく。
仕事から戻った留美は部屋の様子に胸騒ぎを覚える。そこに電話が鳴る。
「まさるさん、まさるさん、どこへ行くの?」という留美の絶叫は電話切断音に掻き消されるだけだ。
一週間後、留美の元に竜崎勝からの最後の手紙が届く。そんなとき「きったない字の手紙書きやがって。まさか列車の震動のせいにするんじゃないやろなあ」とは言ったりしないのだ、日本の演歌女は。
あなたの震えは愛の迷いじゃないですか?
デットーリやムーアは馬の首を叩いて「リラックス ベイビー」と言う。ルージュバックは戸崎圭太の方を振り向いて「あなたの震えは愛の迷いじゃないですか?」と心配そうに聞く。
「うわ、馬が騎手の震えの心配までするのか。こんな国の競馬はやっとられん」と呆れて欧米馬は来日しなくなったんじゃないか。