大健闘を見せた「最後の都道府県代表」 天皇杯漫遊記2016 FC東京対Honda FC

宇都宮徹壱

いびつな日程がもたらした不公平感

都道府県代表で唯一、勝ち残ったHonda FC。ラウンド16進出は9年ぶり 【宇都宮徹壱】

 米国大統領選挙の結果に世界中が騒然となり、東京に木枯らし1号が吹いた11月9日、天皇杯の4回戦(ラウンド16)8試合のうち3試合が行われた。

 ここまで勝ち残っているのは、J1クラブが13チーム、J2クラブが2チーム、そして残り1チームが都道府県代表のHonda FC(JFL)である。ただし、FC東京、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島、そして浦和レッズの4チームは、ACL(AFCチャンピオンズリーグ)参戦チームに与えられる優遇措置により、ベスト16からの出場となった。この日は、味の素スタジアムで19時から開催されるFC東京対Honda FCの試合を取材することにした。

 これが初戦となるFC東京に対し、Honda FCはJクラブ3チームを倒して9年ぶりのベスト16。両者を比較する前に、勝敗の鍵を握りそうな、重要な要因について考えたい。それは「リーグ戦の日程のバラ付き」である。JFLはまだ1節を残しており、セカントステージ首位のHonda FCは、2位との差がわずか2ポイント。非常に気の抜けない状況である。対するFC東京は、11月3日でレギュラーシーズンを終えており、残る公式戦は天皇杯のみ。当然、初戦に向けて抜かりなく準備をしてきたはずだ。

 この日程面での差は、カテゴリーの差以上に大きいように感じられる。同様のことはJ1とJ2の対戦(G大阪対清水エスパルス、大宮アルディージャ対横浜FC)についても言えるだろう。J2は今季残り2試合。とりわけ清水の場合、J1自動昇格の可能性を残していることもあり、この天皇杯は「主力温存、先発総入れ替え」との報道もあった。

 J1とJ2とJFLは(そしてJ3も)、チーム数は一緒ではないので、必ずしも同じタイミングでシーズンを終える必要はないと思う。とはいえ、トップリーグのレギュラーシーズンが、2部や4部のリーグより10日以上も早く終了してしまうのは、やっぱり不自然に感じるし、天皇杯で不公平感を生んでいるのも事実である。幸い、こうした日程を強いてきたJリーグチャンピオンシップは、今季限りで終了することがすでに発表されている。これを機に、天皇杯でJ1以外のチームが不公平を被る日程が是正されることを強く望みたい。

接戦を制してきたHonda FCと主力を欠くFC東京

前半18分、Honda FCは久野のゴールで先制。会場を大いに沸かせた 【宇都宮徹壱】

 FC東京とHonda FCが天皇杯で対戦するのは、2003年大会以来13年ぶり。この時は味スタで3回戦を戦っており、延長戦でも決着がつかずに(2−2)PK戦までもつれ、最後はFC東京が競り勝つという、非常にスリリングな展開であった。余談ながら、この試合でFC東京を指揮していたのが、現Jリーグ副理事長の原博実氏。対するHonda FCを率いていたのは、現在FC東京でトップチームのコーチを務める安間貴義氏である。

 JFLの強豪として知られるHonda FCだが、実は天皇杯の出場は6大会ぶりだ。FC岐阜との1回戦を延長戦の末、2−1で制すると、続く松本山雅FC戦、グルージャ盛岡戦にいずれも2−1で勝利。静岡県予選決勝の藤枝MYFC戦(延長3−2)も含め、Jクラブ4チームにいずれも1点差で勝利して、ここまで勝ち上がってきた。

 一方のFC東京は前述したとおり、これが天皇杯の初戦である。しかし、森重真人と丸山祐市が日本代表に、そしてネイサン・バーンズがオーストラリア代表に、それぞれ招集されて不在。また、徳永悠平、米本拓司、ムリキが負傷でベンチ外となっている。この試合でキャプテンマークを担ったのは、高橋秀人とセンターバック(CB)でコンビを組んだ吉本一謙。当人いわく、FC東京のキャプテンになるのは「子供の頃からの夢だった」そうだ。

 最初に決定的なチャンスをつかんだのはFC東京。前半7分、ペナルティーエリア左角付近からFKのチャンスを得る。キッカーの河野広貴は直接狙ったが、これはHonda FCのGK清水谷侑樹が辛うじてセーブ。こぼれ球を橋本拳人が押し込もうとするも、直前に中川裕平がクリアしてHonda FCは失点の危機を回避することができた。危機を救った中川は左サイドバック(SB)の選手。攻撃でも見せ場を作り、前半15分には相手ゴール前にグラウンダー気味のクロスを供給し、最初の決定機を作っている。

 そして18分、ついにHonda FCが均衡を破る。右サイドで細貝竜太からパスを受けた香川大樹が、縦方向に長いスルーパスを供給。高橋と吉本の両CBの間を抜いたところに、FW久野純弥が走り込んでいた。久野はGK秋元陽太の動きをよく読んで、右足で相手の脇を突いてゴールネットを揺らす。先制したHonda FCは、その後の相手の追撃にしっかり対応して1点リードのまま前半が終了。ハーフタイムのホイッスルと同時に、FC東京のゴール裏からは不満を表明するブーイングが発せられた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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