大健闘を見せた「最後の都道府県代表」 天皇杯漫遊記2016 FC東京対Honda FC
流れを変えた篠田監督の修正力
大健闘したHonda FCであったが、終盤戦のJFLとの両立は厳しかった 【宇都宮徹壱】
「相手の4枚のディフェンスラインを突破する動きがなかった。最初は(河野)広貴と平山(相太=1トップ)にやってもらっていたけれど、サイドは支配できていても、相手のSBの裏に走る選手がいなかった。なので、広貴と宏太のポジションを代えることにしました。(小川を入れたのは)梶山がけがをしたので、そこではっきりと決断することができましたね」
これに対してHonda FCの井幡博康監督は「後半に(相手の)SBが入れ替わったことで局面も変わった。自分も、もう少し早く手を打てばよかった」と試合後に反省の弁を述べている。実際、両SBの陣容が替わり、さらに積極的に高いポジションから仕掛けることで、FC東京は前半以上にチャンスを作れるようになる。
後半6分の同点ゴールも、右の小川と左の室屋による揺さぶりから生まれたものだった。中島翔哉が左足で放ったシュートは、Honda FCのキャプテン、鈴木雄也の肩をかすめてコースが変わり、そのままゴールイン。その後は一進一退の攻防が続くも、ついに試合を決定づける逆転ゴールをFC東京が挙げる。後半35分、水沼からのパスを受けた中島が、相手DFを引きつけながら右サイドを走り込んできた室屋にラストパス。マーカーとGKが接近する中、室屋は巧みにボールを浮かせて見事にネットを揺らした。
何とか追いすがりたいHonda FCは後半41分、FKのチャンスから栗本広輝が直接狙うも、ボールはポスト左を直撃。結局、アディショナルタイム3分をしのぎきったFC東京が、JFLの難敵をかわして、見事に準々決勝進出を果たすことになった。シュート数では、FC東京が7本に対し、Honda FCが12本。決して圧勝とは言い難かったが、それでもしっかり結果を残すところに、リーグ戦終盤で4連勝したFC東京の好調ぶりを見ることができた。
Honda FCに声援を送った「JFL連合」について
Honda FCのゴール裏には、ライバルチームのサポーターの姿も見られた 【宇都宮徹壱】
敗れたHonda FCの井幡監督は、J1クラブと接戦を演じたにもかかわらず、反省しきりの様子。その表情からは、悔しさばかりが感じられた。コメントの中でも触れていたが、チームは6日にリーグ戦(しかもラインメール青森との上位決戦)、9日の天皇杯、そして13日にもリーグ戦(優勝が懸かった最終節)を控えている。やはり日程の面でハンディを負っていた感は否めない。一方、キャプテンの鈴木も悔しさをにじませながら、今後はリーグ戦に集中する旨のコメントを残している。
「勝ちにいっていたので悔しさが残ります。先制できましたけれど、1点(取っただけ)で勝てるとは思っていませんでした。2点目、3点目を狙いにいったんですが……。ただ、リーグ戦に加えて天皇杯を経験できたことで、自信やたくましさは付いてきていると感じています。天皇杯は今日で終わりましたけれど、日曜日の最終節には勝って優勝したい。アマチュアのナンバーワンになることで、支えてくれた皆さんに恩返しがしたいと思っています」
そんな彼らを最後まで応援し続けていた「サポーター」について、最後に触れておきたい。この試合、Honda FCを応援していたのは、本拠地の浜松から駆け付けた本田技研の社員やサポーターばかりではない。普段のリーグ戦でしのぎを削ってきた、ライバルクラブのサポーターたちも「JFL連合」として、Honda FCの応援に駆け付けていたのである。彼らが掲げた横断幕には、「魅せろJFL魂! 輝けこの舞台に」という、JFLファンの総意ともとれるメッセージが書かれてあった。
こうした、Jリーグではなかなかお目にかかれない風物に接することができるのも、天皇杯ならではの光景である。この日、清水も横浜FCも敗れたため、ベスト8以降のトーナメントはJ1クラブのみとなってしまった。いささか残念ではあるが、今大会で大健闘した「最後の都道府県代表」Honda FCには、この週末でのタイトル獲得を心より祈念したい。