女子フィギュア、勝負の鍵は演技構成点 “かつてない混戦”の今季を占う

野口美恵

フィンランディア杯で演技をする浅田真央 【写真:ロイター/アフロ】

 かつてない混戦。今季の女子を語るには、この一言しかないだろう。新たな4回転時代を迎えた男子に比べて、女子のジャンプ技術は、わずかなトリプルアクセルジャンパーを除き、「3回転+3回転」の連続ジャンプを最高技術とする状態が続いている。僅差の勝利のために必要なことは何か、そして五輪プレシーズンにやるべきことは何か。今季女子の下克上を占う。

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ジャンプの作戦に変化、「質」が勝負

 女子は身体能力的な限界もあってか、「3回転+3回転」が勝敗の鍵となる状況が20年以上も続いている。昨季までは、組み合わせるジャンプの「種類」や、得点が1.1倍になる「後半」に跳ぶかどうかで、1点前後の小さな得点を積み重ねる作戦が多かった。しかし今季はその作戦に変化が表れている。

 実際には、「3回転+3回転」を無理に難しい種類の組み合わせで跳んでも、質が高くなければ得点にはつながらないし、ミスすれば大幅にマイナスされるので元も子もない。むしろジャンプは、「ショートプログラムで3本、フリースケーティングで7本」あるため、1つ1つの質を磨いて加点を積み重ねる方が、総合点は上がる。

 ここ2シーズンまでは、3回転ルッツや3回転フリップなどの難しい連続ジャンプの習得に時間を費やした選手が多かった。しかし今季は五輪プレシーズンということもあり各選手とも、「苦手をなくす」よりも「得意を伸ばす」作戦へとシフトしている。今季そして五輪シーズンの女子は、ジャンプの「種類」よりも、「成功率」と「質の加点」が勝負になる。

ジャンプは成功率と質が重要。宮原知子の強みでもある 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 宮原知子(関西大)のように全ジャンプをパーフェクトにできる選手は強い。ジャッジの側もジャンプを見ながら「成功するかどうか」という気持ちではなく、「成功する上で、どこまで加点をつけるか」という期待をもって採点できる。この安定感こそが宮原のジャンプの良い部分である流れの良さや音楽との一体感などに着目してもらう鍵になるだろう。

 本郷理華(邦和スポーツランド)は、昨季こそ成績が安定しなかったが、長身を生かした高低差のあるジャンプが持ち味だ。しっかり決まれば、GOE(技の出来映え)の加点「+2」「+3」を狙える素質があるだけに、今季は縮こまらずにぶつかっていきたい。

 またシニア初参戦の樋口新葉(日本橋女学館高)は、スピード感と飛距離が抜群。空中に飛び出して行くような放物線は、男子のジャンプに近い。爆発力のあるジャンプを見せて「すごいジャンパーがジュニアから上がってきた」という印象を世界に与えるシーズンになりそうだ。

 昨季の世界女王エフゲーニャ・メドベージェワ(ロシア)は、ジャンプ中に手を上げて難度を高くすることで、多くの加点を得ている。手を上げても成功率や高さが変わらないのも彼女の特徴で、今季も確実に得点を稼いでくるだろう。

大技に挑む可能性がある2人

トリプルアクセル成功経験を持つトゥクタミシェワ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 大技トリプルアクセルを跳ぶ可能性があるシニア女子は、浅田真央(中京大)とエリザベータ・トゥクタミシェワ(ロシア)の2人のみ。

 浅田は今季中盤から挑むかどうかが注目される。ただし目指すべきはむしろジャンプ1つ1つへの加点だろう。26歳となった今季は、けがや回転不足などのリスクを背負ってまで大技に挑戦するよりも、得意の種類のジャンプで固め、曲との一体感など熟練さを見せる方向性にシフト。大人の戦い方を見せている。

 トゥクタミシェワは、15年世界選手権でトリプルアクセルを成功させたものの、昨季は成功がなかった。五輪に向けて得意技を披露するか、期待される。

 アシュリー・ワグナー、グレーシー・ゴールド(共に米国)、アンナ・ポゴリラヤ(ロシア)らジャンプの「質」が高い選手は、昨季以上の上位を狙ってくるだろう。またエリザベート・トゥルシンバエワ(カザフスタン)や三原舞依(神戸ポートアイランドクラブ)ら、まだ若手だがジャンプの「成功率」を武器にする選手も、進化が期待される。

 結局は、誰もが同レベルのジャンパーといえる状況。1つのミスが大きく順位に影響する激戦になることは間違いない。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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