女子フィギュア、勝負の鍵は演技構成点 “かつてない混戦”の今季を占う

野口美恵

ジュニアはロシアと日本の2強

昨シーズンの世界ジュニアを制した本田真凜(写真)らは、来季のシニア参戦を見据え、どこまでスケーティング技術を身につけられるか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 シニアが混戦となる一方で、ジュニアは完全なる日本、ロシアの2強時代が続く。すでにジュニアグランプリ(GP)ファイナルの進出者6人は、3人がロシア、3人が日本で確定している。日本からは16年世界ジュニア女王の本田真凜(関西大中・高スケート部)をはじめ、トリプルアクセルを成功させた紀平梨花(関西大学KFSC)、そして坂本花織(神戸FSC)が参戦する。

 女子の場合、身体が小さくて細いジュニアのほうが「3回転+3回転」の成功率が高く、シニアに上がる16〜19歳あたりはスランプに陥る選手も多い。そのためジュニアのトップグループのほうがシニアよりも、ジャンプだけ見れば高得点という逆転状態に。紀平も9月のジュニアGPスロベニア大会ではトリプルアクセルを成功させて194.24点をマークした。ただし紀平は、18年平昌五輪には年齢が足りず出場できない。

 平昌五輪に向けては、来季のスケート年齢が15歳となる本田や、17歳となる坂本がシニア参戦すれば、安定的なジャンプを武器にできるだろう。彼女らが、今季のうちにどこまでシニアに匹敵するスケーティング技術を身に付けるか、注目したい。

個性の時代へ、プログラム勝負

本郷理華は、長身を生かした幅の広い演技に期待 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 ジャンプ構成に差がないぶん、差別化を図るには演技構成点(PCS)が重要になってくる。来季の五輪に向けて、今季のうちにどの選手も高いPCSをマークしておきたいところだ。国際大会で高い評価を得ることで、得意とするプログラムの方向性も分かるし、世界に対して存在感もアピールできる。

 浅田は、ショートとフリーで同じ楽曲『リチュアルダンス』を使用する。ショートではピアノの音色を繊細に、フリーではオーケストラの音色をダイナミックに表現する。卓越したスケーティング力が必要とされる試みで、芸術的な領域に足を踏み入れたといえる。

 宮原は、淡く切ない恋物語を表現する『ラ・ボエーム』と、ダイナミックに宇宙を表現する『惑星』の2曲。「笑顔を作るのが苦手なので、ショートはまだぎごちない感じ。フリーは少しつかめてきたと思う」と語るとおり、ショートは新たな持ち味の模索、フリーは確実な高評価を狙ってきた。来季の五輪に向けて、できれば表彰台に乗っておきたい。

 今季は得意な楽曲で、攻めに徹するのは本郷。特に今季のフリー『アラビアのロレンス』は、男子が使うことが多いほど力強い楽曲で、ダイナミックな演技を見せることで国際舞台での存在感を示すことができる。

シニア初参戦の樋口新葉。力強いジャンプが持ち味だ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 そして今季の急成長株、樋口。すでにB級国際大会で優勝し、鳴り物入りでシニアへ参戦する。スピードと飛距離と高さのあるジャンプは折り紙付きなので、あとはジュニア時代の「元気いっぱい」という表現から、「大人の女性の強さ」への変化が鍵になる。映画『ラ・カリファ』の壮大ながら美しい音色と、『シェヘラザード』のオリエンタルな美しさ、どちらも樋口の滑りを成長させてくれる曲になるだろう。

 今季から五輪にかけて、女子はジャンプ技術的には大きな変化はなく、“個性の時代”を迎えた。自分の持ち味を引き出す“運命の一曲”にこの2シーズンの間に出会えるかどうか――。一人でも多くの女子が、芸術的領域へと踏み入れる瞬間を待ちたい。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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