日本バスケの次なる課題は「強化と育成」 栃木ブレックスU−15に感じる期待感

大島和人

競技力向上が求められる日本バスケ。ブレックスは他クラブに先んじて、育成組織「U−15」の活動を開始した。写真は青野アドバイザリーコーチ(中央)、荒井HC(右)、スクール事業グループの山田氏(左) 【大島和人】

 9月22日、ついにプロバスケットボールのBリーグが開幕する。決してこれが日本バスケ界の「ゴール」ではない。ここからファンを増やすとともに、競技力をより向上させていくことが、バスケ人の大きな責務となる。

 世界と比べても小柄な体格を持つ日本人がゆえに「バスケに向いていない」と冷や水をかける人がいるかもしれない。しかし女子の日本代表は今夏のリオデジャネイロ五輪でメダルを争い得る実力を示し、ベスト8入りも果たした。日本人と平均身長が変わらず、アフリカ系選手も基本的にはいないスペインやアルゼンチンが、世界でメダルを争う競技力を持っている。可能性は必ずあるし、チャレンジを始める前から、壁を不必要に意識する必要はない。

 ただ五輪から40年以上も遠ざかっている日本の男子バスケを浮上させようとするなら、やはり大きな変革が必要だ。

長い目で取り組まなければいけない「強化と育成」

 国際バスケットボール連盟(FIBA)が2015年の制裁期間中(※日本は14年11月から約9カ月にわたってFIBAの資格停止処分を受けた)に日本側へ提示した改革のテーマは、「国内トップリーグを一つにすること」「協会のガバナンス」「日本代表の強化と若手の育成」の3つだった。この中で最も困難で、息の長い取り組みを必要とするものは間違いなく「強化と育成」だ。

 新しい取り組みはすでに始まっている。その一例がこの9月に実現した佐藤晃一氏の日本バスケットボール協会(JBA)スポーツパフォーマンス部会 部会長着任。彼はNBAの2クラブ(ワシントン・ウィザーズ、ミネソタ・ティンバーウルブズ)で計8年間、フィジカルトレーナーとして活躍した人材だ。大河正明JBA副会長(兼Bリーグチェアマン)は「トレーニングの仕方そのものをレベルアップしていかないと、日本のバスケもレベルアップしない。小学生、中学生、高校生といった育成世代で、トレーニングの方法を標準化して『こういう方向でやってほしい』ということはこの方を中心にやっていく」と彼の起用について説明している。

 新リーグへ参加するクラブへの条件には「ユースチームを有すること」という項目が含まれていた。これは“ユースチーム”の年代や中身を特定したものではなく、以前からクリニック、スクールといった形で地域への貢献、普及に取り組んでいたクラブもある。ただ一つ間違いなく言えるのは、JBAがBリーグのユースチームという新しい強化の柱を立てようとしていることだ。

 川淵三郎・タスクフォースチェアマン(当時)は、15年3月の段階で「JBAが改善しなければならない最大の問題は、代表チームが強化されていないこと。そのためにはユースをいかに育てていくか。プロリーグの各チームが若手を養成・育成していくところに強化の重要なポイントがある」と明言している。

大規模な育成組織を形成するブレックス

活気のある練習が行われていたブレックスU−15。4月から週5回の活動を開始した 【大島和人】

 すでに中学生年代の強化チームを立ち上げているリンク栃木ブレックスの取り組みは、一つのひな型になるだろう。県全域で活動し、約500名が参加するスクール組織はすでに有していた。そしてジュニアユース(U−15)が、この4月から週5回の活動を行っている。

 事務局としてスタートアップに尽力した山田将樹氏は、発足の理由を「栃木県を強くしたいというのが一番大きなところ。栃木県出身のトップチーム所属選手を生み出したい。もう一つは国体に向けての強化で、22年に栃木国体もある」と説明する。県のバスケットボール協会とも協調して進めているプロジェクトだ。

 中2、中3については「トップ選手育成クラス」の選手がU−15に移行した。16年春に加入した中1世代は、ほとんどの選手が小6時にU−12栃木県選抜へ選出されている期待の世代だ。16年2月のセレクションの取材時には身長が170センチに達している子も見かけた。同世代の平均身長を考えれば、かなり大柄な子たちが集まっている。

 ただし、いわゆるスカウト活動は行っていない。2月、3月のセレクションに来たのはホームページを見て、もしくは口コミで情報を得て集まった親子だ。サッカー界なら「Jリーグに選手を送り出すこと」が街クラブ、少年団の誇りとして前向きに受け取られるかもしれない。しかしバスケにおいてBリーグクラブの育成組織は新参者。倍率も4.5倍ほどで、数百倍の競争になる首都圏の有力Jクラブに比べると決して高くはなかった。

 育成組織の立ち上げは手間と時間がかかる。それがバスケ界、社会へ浸透していくためには、結果を見せることも必要だろう。17−18シーズンのBリーグクラブライセンス交付規則を読むと、ユースチームについては「保有を推奨した上で、保有状況・経営の報告義務が各クラブに課される」という内容にとどまっている。Bリーグをしっかり軌道に乗せた「その次」の課題という面もある。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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