日本バスケの次なる課題は「強化と育成」 栃木ブレックスU−15に感じる期待感

大島和人

育成強化で実績を残した競泳や体操

トップチームの試合映像を見せながら、青野コーチが選手に戦術的なポイントを解説。専門的な指導者が腰を据えた指導を行うことが重要だ 【大島和人】

 日本のメディアが扱う育成年代のスポーツは学校体育ばかり。そもそもクラブチームは認知度が低く、実態を知られていない。

 しかし9月6日のワールドカップアジア最終予選・タイ戦で先発したサッカー日本代表11名のうち7選手がU−18年代、10選手がU−15年代をクラブチームで過ごしている。野球もプロ入りするような有力選手は、中学生年代をボーイズ、シニアといった硬式のクラブチームで過ごす例が多い。スポーツに力を入れる私立中学の台頭という潮流もあるが、中学生年代のトップ強化は、野球でさえ学校体育から離れて行われることが通例だ。

 リオ五輪では競泳、体操が目覚ましい実績を残した。この両種目も1960年代から民間のスポーツクラブが普及、強化の種を撒いてきた種目だ。クラブという仕組みで、専門的な指導者が腰を据えた指導を行う効果の証明だろう。

 バスケにも民間のクラブチーム(少年団)は当然ある。小学生年代についてはミニバス連盟という全国組織があり、大会も整備されている。中学生年代にもレベルの高いクラブチームはあり、愛知県など活動が盛んな地域もある。ただ全国的なクラブユースの統括組織はなく、公式戦も未整備。例えるなら学校に対する“塾”のような存在になっている。

過渡期ならではの特殊な現状

 ブレックスの選手も、部活を終えた後にU−15の練習もするという“二重生活”を送っている。当然ながら、練習の負荷が過大になるという懸念がある。地域のカップ戦などに出場する場合も、出欠を取って出場の可否をあらかじめ確認することは必須だという。今はまだ、クラブチームに関する協会の登録制度整備を待っている状態だ。

 もちろん、これは過渡期ならではの特殊な形態だろう。大河チェアマンは「U−15のチームを持ってもらい、次いでU−18につなげたい。U−15に関しては18年をめどに各クラブが出そろってほしい。手っ取り早いのはユースチーム同士の大会だが、中学の部活、高校の部活とクラブをミックスした大会を、リーグ戦化も念頭に18年くらいからスタートできたらいい」とも構想を述べている。U−15とU−18がそろえば、部活では難しい“飛び級”を生かした育成も可能だ。

 U−15の練習は基本的に、荒井尚光ヘッドコーチ(HC)を中心にした2人体制で指導が行われている。アドバイザリーコーチとして網野友雄、青野和人の両氏が週1回をメドに関わっている。また昨年、一昨年はトップチームの田臥勇太選手がトレーニングに顔を出したこともあったという。

 網野コーチは元日本代表選手で引退までの4シーズンをブレックスでプレーし、現在はチームのアンバサダー。現在は関東大学1部の日本大学でHCを務めている。青野コーチはプロコーチで、メーンの仕事はB3大塚商会アルファーズのHCだ。いずれも空いた日はU−15も見るという形だ。

 練習を取材するとよくコミュニケーションを取る、選手に考えさせて話をさせる指導が印象的だった。青野コーチに指導方針を尋ねると「考えながらスポーツをするところを、大げさなくらいにやっている。何が課題で、どう解決しようというのを自分たちで考えて報告させる時間も用意している。乗り越えてきたところのフィードバック、『これは本当によくやった』というたたえ方はよくやる」と説明する。

 青野コーチが練習に参加するのは月曜日限定だが、彼は練習後の選手ひとりひとりと会話する時間を取っている。選手たちに“テーマ”を与えて、当然その後のフォローも行う。彼は「死に物狂いで教えていますけれど、いい気分転換にもなっている。子供の方が間違いなく成長速度は速いので、1週間でこんなことができるようになったのか! という驚きがある」と育成年代を指導する“楽しみ”を口にする。

求められるBクラブ下部組織の台頭

 スタッフに聞くと、やはり先駆者ならではの苦労もあるようだ。立ち上げに当たっては先行するJクラブの事情を調査し、英語のできるコーチは海外の情報も調べた。山田氏は「J1(のユース)は、かなり進んでいて、自分たちもそこを目指したい」と語る。

 中学生が練習を終えて体育館を出るのが21時から22時。栄養講習を受け、練習直後におにぎりやサプリメントをとる工夫はしているが、食事の環境は用意できていない。練習会場は宇都宮市内の体育館を転々としているのが現状で、中には冷暖房のない施設もある。ブレックスバスケットコートという倉庫を転用した施設は優先的に使用できるが、他の会場はバドミントン、バレーボールなど他競技とも含めた抽選に勝たなければ確保できない。

 とはいえ、ブレックスU−15も徐々に前進している。7月にはおそろいのトレーニングウエアが完成し、試合用のユニホームもファンに披露間近。トップチームの今季2戦目となる9月25日の秋田ノーザンハピネッツ戦では、エキシビジョンゲームとしてU−15の試合も行われる。そこで「U−15のユニホーム」が初めて着用されるという。

 大企業の母体を持たないブレックスがこのような試みをしていることは、日本バスケ界の今後に向けた「小さいけれど大きな一歩」になるはずだ。

 川崎ブレイブサンダース、アルバルク東京、サンロッカーズ渋谷のような大企業にルーツを持つクラブは自前の体育館を持っている。施設面でブレックスのような苦労がなく、周辺の人口も多い。そういったクラブを含めたリーグ全体が“本気”になれば、Jリーグで起こったユースチームの台頭が、Bリーグでも起こるはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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