国民の関心が低い、五輪セレソン ネイマール中心に皆で目指す金メダル

大野美夏

日本戦はまずまずの手応え

五輪大会前、日本代表と唯一の親善試合を行ったブラジル代表。まずまずの手ごたえを得た 【写真:ロイター/アフロ】

 現地時間7月31日、リオデジャネイロ五輪サッカーブラジル代表はブラジルのゴイアス市で最終調整のテストマッチとして日本と戦った。わずか11日間の練習をして迎えた最初のゲームになったわけだが、ロジェリオ・ミカーレ監督の目指したコンパクトでオフェンシブなサッカーの形は見えた。

 前半、積極的にガブリエウ・バルボサ(通称ガビゴウ)、ガブリエウ・ジェズス、フェリペ・アンデルソン、ネイマールがポジションを入れ替えながら、スピードと個人技で積極的に日本ゴールを襲った。ボールポゼッションは完全にブラジル側にあり、守備はトップのガブリエウ・ジェズスから始まり、ディフェンスラインはセンターラインまで上がって日本勢をプレスし続けた。ついに前半33分、ガビゴウがドリブルで日本の堅い守備を突破して先制ゴールを決めた。

「10日という限られた時間なので、われわれのシステムはAプランとBプランしか持っていない」と指揮官が言うように、戦術の手のうちが限られている場合、解決策は個の力とセットプレーだ。

 キッカーに選ばれたネイマールはFK、CKと徹底的に練習をした。日本戦ではFKが惜しくもクロスバーに当たったシーンもあったが、CKからマルキーニョスがヘッドで合わせて2点目をゲットした。

 しかし、親善試合のお約束のように、後半はコンパクトなサッカーから徐々に離れ、システムが間延びして、守備から攻撃までのボール運びがすっかりスローになってしまった。前半に飛ばし過ぎたこともあり、足があまり動かず疲れの見える選手もいた。そこをネイマールは個人技で解決しようと、自分本位のプレーになりすぎた感は否めない。また、中盤のマークの受け渡しを徹底するなど、さらに改善が必要な課題はまだまだある。それでも、リザーブ選手のテストもできて、テストマッチとして日本戦は大変有効であった。

ブラジルにおける五輪サッカーの存在価値

育成年代の指導経験が豊富なミカーレが、選手リスト提出のわずか数日前に正式に五輪監督に就任 【Getty Images】

 では、自国開催の五輪にあたって、ブラジル国民の悲願の金メダルへの期待はいかに?

「リオ五輪でメダルが期待できる競技は?」という質問に対し、一番に挙げられるのはバレーだ。

 ではサッカーは? 「うーん、だめなんじゃない」と素っ気ない反応が返ってくる。というのも、みんな五輪代表のことをよく知らないのだ。

 ブラジルのサッカー五輪代表はアトランタ、シドニー、北京、ロンドンとA代表の監督が兼任する形を取ってきた。A代表のおまけ的存在で、五輪のために特化したチーム作りや準備をしなくともどうにかなるというやり方だったため、あまり重要視されてきていないのだ。もちろん、そんなことでは簡単に金メダルが取れるものではなかったのだが……。

 しかし、今回、大会直前に慣例が覆された。6月に行われたコパ・アメリカ・センテナリオの予選リーグ敗退を受け、A代表のドゥンガ監督が解任されたのだ。そして、すぐさま国内ナンバー1監督と評されるチッチの監督就任が決まった。これは久々にセレソン(ブラジル代表)の明るいニュースとなった。ただ、五輪直前の交代劇とあって、いきなりチームを引き受けられるのか心配された。

「私は、五輪代表は指揮しない。これまでずっと指導してきたミカーレ監督に任せる」

 チッチは話し合うべきことは話し合い、協力は惜しまないが、チームを作ってきたミカーレ監督を信用して任せたほうがいいと判断した。こうして選手リスト提出のわずか数日前に正式にミカーレが五輪監督に就任したのだ。ミカーレは2015年からU−20代表監督として世界大会準優勝に導き、さらにU−23代表を率いてパンアメリカン大会で銅メダルを取っている。チッチ監督は、選手たちからも信頼を勝ち取っているミカーレに一任するという、実にまっとうな判断をした。

育成畑を歩んできたミカーレ監督

 さて、ミカーレという監督のことを日本の皆さんはご存知ないだろう。それもそのはず、ブラジル人でさえよく知らないのだから。

 47歳のミカーレ監督は育成のスペシャリストで、これまでに、さまざまなクラブの育成世代を指導してきた。プロチームの監督をわずかしか経験していないため、メディアに出ることはほとんどない。元プロ選手で、小さなクラブのGKをしていた。現役引退後、育成世代の指導から、徐々に有名クラブの下部組織で働くようになり、これまで17年間、育成畑を歩んできた。そして名門アトレチコ・ミネイロでの実績が認められ、15年にブラジル代表U−20の監督に就任した。

 目指すサッカーはオランダにインスピレーションを得た現代的なオフェンシブスタイル。コンパクトなスペースで全員が攻撃し、全員が守る。ミカーレ監督の好きな言葉は“カオスな攻撃”。カオスとは「混沌とした」という意味があるが、好き勝手ということではなく、秩序を持ちながらもゴール前で相手をかく乱するようなスピード感とドリブルを駆使した攻撃のことだ。ボランチもサイドバックも常に攻撃のチャンスをうかがう。システムは4−2−4をベースとしたバリエーション。攻撃と守備の素早いトランジションと、素早いポジショニングの移動は攻守関係なく、すべての選手に求められる。

 攻撃では両サイドを駆使し、リスクを恐れずシュートを放つ。守備は相手の攻撃の芽を早い段階で摘めるように、FWから積極的にボールを奪いにいき、イタリアの“カテナテオ(堅い守備)”のごとくがっちりとしたディフェンスを要求する。セットプレーではネイマールのテクニックを可能な限り活用。「監督はポジショニングをすごく大事にする」とネイマールが言うように、常にゲーム全体の中で、自分のポジショニング考えることを求める。

「選手はロボットになる必要はない。自分で考えて行動すべきだ」

 ミカーレ監督は仕事にはストイックなところがあるが、選手のセンスを生かす考えを持つ。家族をすごく大事にする暖かい一面を持ち、ひとたび仕事を離れるとジョークを飛ばしてばかりいるという明るい人物だ。しかめっ面のドゥンガとは、人物像もスタイルもかなり路線が変わった。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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