国民の関心が低い、五輪セレソン ネイマール中心に皆で目指す金メダル

大野美夏

五輪代表で期待されるネイマールの役割

ロンドン五輪時には20歳だったネイマール(中央)。OAで参加する今大会はキャプテンとして若いメンバーを引っ張る立場に 【Getty Images】

 今回の五輪代表のキープレーヤーと言えば、オーバーエイジ(OA)枠で招集されたネイマールだ。24歳でありながら、代表でもクラブでも大舞台を経験してきている。ブラジルは、ここ数年ネイマール依存症と言われてきているが、そんな批判に対してミカーレ監督は「私も是非ともネイマール依存になりたいものだ」と笑って答える。

「ネイマールは1人で試合をひっくり返すくらいの特別な力を持つ選手だ。世界中でネイマールを自分のチームに欲しくないなんて監督はどこにもいないだろう?」

 依存を心配するよりも、ネイマールが味方にいる幸運を喜ぶ。ただ、過大なプレッシャーをかけるつもりはない。「ネイマールには楽しくプレーしてほしい」と暖かく見守る。

 銀メダルに終わったロンドン五輪では20歳だったネイマールも、今ではバルセロナの主力選手になり、メンタルも戦術的にも成熟してきた。他の若いメンバーを引っぱり、アドバイスをする立場でキャプテンにも選ばれた。

「メンバーはぼくを英雄視しなくていい。僕らは仲間で友達なんだから。セレソンでプレーするということは大きな責任を負うことだけれど、失敗も成功もいろいろな経験をしてきたぼくだからこそ、今回は少しでも若いメンバーの背中の重みを和らげる役割をしたい。みんなと一緒に冗談を言って遊んで、楽しく思い切ってプレーできるように協力する」

 世論では「ネイマールはキャプテンタイプじゃない」と批判も多いが、それを跳ね退けるような成長ぶりが見せられるかどうか。

活躍が期待される中心選手たち

ネイマール以外にもガブリエウ・バルボーザ(9)、ガブリエウ・ジェズス(11)、ラフィーニャ(後列右から2番目)らタレントがそろう 【Getty Images】

 ネイマール以外にも注目の選手が多数存在する。まずはガブリエウ・ジェズスとガビゴウ。ガビゴウは、その名(ガビはガブリエウの短縮形で、ゴウはゴール)の通り、点取り屋でネイマールを発掘したジットコーチが見つけた逸材だ。16歳のときにサントスでトップチームに上がり、19歳で既にA代表デビューを果たしている。

 次に、バルセロナに所属するラフィーニャだ。ブラジルとスペインの二重国籍を持っており、一度はスペインを選んだが、最終的に“カナリア軍団”に入ることを選んだ。けがの回復具合が気になるところだが、ブラジルを選んだラフィーニャが祖国でどんなサッカーを見せてくれるか。

「兄のチアゴ(バイエルン・ミュンヘン/スペイン代表)と違って、ぼくは自分のことをもっとブラジル人だと思ってる」(ラフィーニャ)

 五輪はFIFA(国際サッカー連盟)の認める公式戦ではないため、クラブの許可を得られず、呼べなかった選手もいる。それは同時に他の選手にチャンスが回ってきたということだ。その1人がグレミオのワラセ。「夢に見ていたカナリア軍団の一員となったからには、せっかく巡ってきたチャンスを絶対に生かしたい」という。そんながむしゃらさこそが、最近のセレソンに足りなかったものかもしれない。彼らの多くは、世界のサッカー界でまだ何も成し遂げていない。これからの選手たちだからこそ、純粋に大舞台に立つことを喜び、感激し、楽しむことができるはずだ。

“親しみやすいセレソン”に過剰な期待はない

「ミカーレ監督は、みんなとの会話をすごく大事にしている。自分の意見を押し付けるのではなく、選手たちの意見を引き出してくれるし、自分の説明をみんながちゃんと理解したかを確認してくれる」とネイマールが言うように、監督と選手は互いの意見を交換できる風通しの良さがある。この良いムードとリラックス感のおかげで、国民から遠い存在になっていたセレソンが“親しみやすいセレソン”と呼ばれ、人々の支持を得ている。

 とはいえ、このチームにネイマールがいるといっても、本当のセレソンではないのだ。人々の関心も当然低い。日本戦の関心もそう高くはなく、スタジアムにも空席が目立っていた。ホスト国ではあるが、国民は過剰な期待を五輪セレソンにしていない。それが返って良い効果になるか、プレッシャーの少なさが選手を後押ししないことになるのか、どちらになるだろう?

「『団結心と戦う意欲に満ち溢れたセレソン』が見たい」という国民の声は届いている。誰か1人だけが輝くのではなく、みんなで助け合って初の金メダルに向かう。

「金メダルの責任を全部背負う覚悟はできている。これまでの五輪の金メダリストと同じ舞台に上がれるように全員で歴史を作りたい」

 キャプテンマークをつけたネイマールは、みんなを引っ張る覚悟ができている。

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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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