レーシングドライバーの育成方法とは? 中嶋悟、関谷正徳が語るスクールの役割

田口浩次

効率よく学べる一方、現実を見極めることも

エプソンHSV−010GTをドライブした中嶋氏も「いいクルマだね。レーシングマシンというのは、限界ギリギリより下のレベルでは本当に乗りやすい、素晴らしいクルマなんですよ」と、レーシングカーの限界を引き出すドライバーの仕事を語った 【田口浩次】

 では、育成ドライバーという仕組みや、スクールの仕組みはどのような意義があるのか。才能があるならば、どんどん育ってくるのではないのか? という点においては、より効率的、成長速度を上げる効果があるとふたりは語る。

 以前、マックス・フェルスタッペンの父親である、ヨス・フェルスタッペンに、「どうしてマックスはこんなに才能にあふれるのか」を聞いたとき、ヨスは子育て論として、「自分が考えうる最高の指導者から学ぶ環境を、子供に提供することが大切で、子供は指導者を選べない」と返答した。関谷氏と中嶋氏からも、それに似た言葉を聞くことができた。

「いまの時代と私たちの時代は比べられないけれど、人よりも速くドライブしたいと思う気持ちがどれだけ強いのか、それはいまも昔もドライバーに必要ということは変わらないですね。勝ち抜かなければ結果は残りません。私たちの時代は何事も我流で、遠回りをしてきました。遠回りにも良い面はあったと思いますが、肉体的には若いうちにステップアップした方がいいはずです。だから、スクールというシステムを使って、才能があると見込んだ子供たちの時間短縮をサポートしています。それがスクールを始めたきっかけですし、逆に能力がないのに、ダラダラとこの世界にしがみついていたら、それはその子にとって時間がもったいないでしょう。私の入校式の挨拶は、『スクールは(自分の才能を)見極める場所だ』と言っています。ここで駄目なら、上は無理だから、他のことを考えなさい……と。厳しいかもしれないけれど、スクールは現実を伝えてあげる場所でもあるんです」

 こう中嶋氏は、学校教育とはまったく違うレーシングスクールの厳しい現実を説明してくれた。

 野球やサッカーでは、自身の才能や可能性を小学生時代になんとなく自覚していくものだ。それが中学、高校と進むうちに第三者の目で選抜されていく。ほんの一握りがプロへと羽ばたく。モータースポーツも基本は同じなのだが、才能だけでなくレース参戦資金やクルマの性能差というファクターがあり、ドライバーがはっきりと自覚できない部分もある。レーシングスクールはそこを本人に伝える、という意味合いもあるということだ。

 レーシングスクールのメリットについては関谷氏が的確に説明をしてくれた。

「私の若い頃の才能でいま挑戦したとしたら、レーシングドライバーになれなかったですね。それほど、現在のドライバーのレベルは高い。私から見たら、スーパーフォーミュラの現役ドライバーは全員天才ですよ。でも、競争のレベルがどんどん上がっている。レーシングスクールは、過去の経験が積み重なって、より効率的にドライバーの才能を伸ばす仕組みになっています。他のスポーツ競技と一緒でどんどん進化しているんですね。本当の才能を持つ子がスクールにくれば、モータースポーツの最大の難問でもあるレース参戦資金が解決できる。これも大きいでしょう」とモータースポーツならではの現実を教えてくれた。

「最終的には勝った人が上に進む」

レクサスSC430のスーパーGT車両をドライブした関谷氏。「すごく運転しやすいクルマだった」と言うので、現役に戻れますか? と聞いたら「レーシングカーは限界付近になったら一気に難しい。そこまで攻められないのがいまの実力ですよ」と、腕を磨くことの難しさを語った 【田口浩次】

 レーシングドライバーと聞くと、映画『RUSH』に出演するジェームス・ハントとニキ・ラウダのように、どちらも天才だが、女遊びのエピソードが尽きない、オンとオフがはっきりしているハントタイプと、常にプロフェッショナルな姿勢で物事を判断するラウダタイプが思いつく。果たして、現代はジェームス・ハントのようなドライバーはいるのか、また、どちらが成功するタイプなのか、ふたりに意見を求めると、意外な答えが返ってきた。

「ドライバーがどんなタイプかという評価は第三者がするものです。ドライバー自身がオンオフの切り替えを考えてやっているわけじゃない。今日は休み、今日は遊びと決めて履行するのはつまらないでしょう。自然に遊びの時間になり、自然に仕事の時間になる。その切り替え自体を考えてしまう人は、こういう商売はつらいでしょうね。
 また、レースに限らないと思いますが、人を見て、ああしてみたいという人は居ないと思います。そんな人は勝ち上がっていけない。それぞれ、生まれも育ちも身体も環境も違うわけです。言えることは同じ規則のなかで競争しているってこと。最終的には勝った人が上に進むのがスポーツの世界だと思います」と中嶋氏が語ると、関谷氏が補足を加えた。

「単純に言えば、中嶋悟と星野一義は違う。ミハエル・シューマッハとアイルトン・セナは違う。セバスチャン・ベッテルも当然違う。それぞれの個性が重要で、その個性を理解して、良い部分をどう伸ばすか……。ドライバーとしては、オンオフを切り替えできるほうがいい。よく遊び、よく学びというやつですね。ラウダタイプだって、じつはオンオフはできていますよ。外部からの見え方が違うだけ。ただ、現代のモータースポーツは技術面が洗練されているので、ラウダのようなエンジニアリングを理解する頭の良さが絶対必要ですね。ハントのような感性だけでは勝負は難しい」と。

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