レーシングドライバーの育成方法とは? 中嶋悟、関谷正徳が語るスクールの役割
中嶋一貴、大祐兄弟の成長方法は?
F1にステップアップした中嶋一貴(左)と小林可夢偉(写真は2009年のもの) 【写真:ロイター/アフロ】
まず中嶋一貴について、ジュニアドライバー時代からF1までのステップアップをサポートしてきた関谷氏が熱弁した。
「まだまだ一貴は伸びますよ。すでにトップドライバーですが、ここからさらに一段上を目指すために必要なのは引出しの多さです。それにはいろいろなマシンに乗ることが必要です。いまはWECとスーパーフォーミュラというトップカテゴリーで走っていますが、どちらもドライバーの移動量は多いものの、実際に乗れるレース数は少ない。いまの一貴は、乗るチャンスを重要視すべきですね。カテゴリーを問わず乗っていく。そうしたら、もう一段上へとステップアップすると思います。いまでもトップドライバーですが、いまの環境のままだと、その成長ベクトルは延長上にしかない。十分に速いけれど、もっと速さを求めて貪欲になれば、まだまだベクトルが上がる。さまざまなマシンに乗ることによって、腕は磨かれます。
例えば、私と中嶋さんは、ファンイベントなどでマシンに乗りますが、とっくに腕は錆びてしまっています。ちょっと乗ったところで輝くことはない。私たちが、もし現役時代のように光るように磨くとしたら、ものすごく時間を必要とします。それは現実的ではないですよね。でも、一貴は違います。彼は何に乗っても、どんどん腕が磨かれていく。年齢的(31歳)にもまだまだ光る。十分ハングリーだけど、もっと上にいくポテンシャルがあるということです」
一方、弟の中嶋大祐については父親である中嶋氏が、親子ならではの複雑な事情を明かしてくれた。
「レースには、ドライバーの腕以外にも要素があります。例えば、マシンが持つポテンシャルは大きく成績を左右します。親の贔屓目ではなく、兄弟どちらも幼少から見ていますからね、大祐も速いしうまい。例えば、スーパーフォーミュラにステップアップしてから、チームメートは小暮卓史だったり、ル・マン24時間レースで勝利し、F1テストも経験したベルトラン・バケットだったりと、実績十分のトップドライバーと比較してきて、まったく引けを取らない。ただ、チームが上位で競っていないため、そこが見えにくくなっています。いま必要なのはある種の自信でしょうか。それがひとつのきっかけであり、引き寄せることができたら、一気にステップアップすると思います」と、親心をチラリと見せたところで、関谷氏が助け舟を出した。
「私は客観的に見て、中嶋大祐は素晴らしい才能を持っていると思いますよ。その要素を伸ばすことにおいて、アプローチをもっと色々と考えればいい。例えば年間スーパーGTに乗るのに16日間あります(熊本地震によって年間7戦となったので今季は14日間)。テストを10日足しても26日間。そしてスーパーフォーミュラは年間7戦で14日間、そしてテストを5日足したとして、合計で年間45日になります。実際に走行する機会は、45/365日(約12.3%)でしかない。となると、残りの時間をどうするのか? 自分を高めるために、残りの時間でどうアプローチしていくのか、ということですね。
一貴と大祐が毎戦表彰台を争ったら、スーパーフォーミュラは盛り上がると思います。ファンにもすごくわかりやすいですよね。そうなってくれたらいいなと。トヨタやホンダという、しがらみに関係なく、ファンを惹きつけるストーリーですから」と。確かに、兄弟が毎戦優勝を争うストーリーは、漫画のように盛り上がるに違いない。
最後に、これから未来のF1やスーパーフォーミュラのドライバーを目指す子供たちに向けて、レーシングスクールについて、中嶋氏、関谷氏にビデオレター的に語っていただいた。このレターを見て、日本からも再びF1ドライバーを目指す子が現れ、近い将来にワールドチャンピオンを争う逸材となることを期待したい。