明暗分かれるニューヨークの両チーム 躍進メッツと低迷ヤンキースの今後は?
名門ヤンキースを尻目に首位を走るメッツ
ここまで6度の先発で5勝1敗と好調なマッツ 【Getty Images】
6年連続負け越しを続けてきたメッツだったが、昨季に2006年以来の地区制覇を達成。その余勢を買ってワールドシリーズまで進出し、ニューヨーカーを久々に熱狂させた。主力の大半が残った今季も、5月12日まで21勝13敗でナショナルズとともにナ・リーグ東地区の首位に立っている。
「アストロズ、カブスと同じように、メッツも若手選手を辛抱強く育てたことで成功を手にしている。ヤンキースの現状とは対照的だ。先発投手がしっかりしているだけに、今後数年はプレーオフ争いに絡み続けるだろう」
ニューヨークを拠点に30年以上に渡ってMLB取材を続けてきたロイター通信のラリー・ファイン記者はそう語る。
それぞれ100マイル前後の速球を持つジェーコブ・デグローム(27歳)、マット・ハービー(27歳)、ノア・シンダーガード(23歳)、大型左腕のスティーブン・マッツ(24歳)という先発4本柱は脅威。7月にはエース候補の一人だったザック・ウィーラー(25歳)もトミー・ジョン手術から復帰する。すべて20代の本格派先発陣は、いずれ“史上最高のローテーション”と呼ばれるようになる可能性すら感じさせている。
打線にもヨエニス・セスペデス、デービッド・ライトといったスター性の高い野手を擁し、メッツの注目度は急上昇。最近では地元紙などでもメッツ選手が見出しを飾ることが増えてきた。しばらく完全に“ヤンキースの街”だったニューヨークに、確実に変化の兆しが見えてきていると言っていい。
ヤンキースは再建に向けてどう判断をするか
しかし、このまま好材料が見えないまま、プレーオフ争いから遠ざかっていってしまった場合はどうか? 過去のヤンキースは、シーズン中にも必死の戦力補強で最後までベストを尽くしてきた。しかし、戦力均衡化が進む現代のMLBで、急ごしらえのチームはもはや長続きはしない。だとすれば、トレード期限の7月に抜本的な改革を考えるのも悪くはないだろう。
「過去2年、ディディ・グレゴリアス、スターリン・カストロといった若手野手を獲得したのは適切だったし、マイナーには何人か若手も育ってきている。今夏、ベテランをトレードして若いタレントを加えることができれば、近未来の布石になる。総合的に見て、今年のプレーオフ争いは難しくとも、もともとの資金も考慮に入れれば、比較的早く再び優勝を狙えるチームに戻るのではないか」
ファイン記者のそんな言葉通り、今季中にヤンキースが一部の主力選手を放出するのではという推測は徐々に増えてきている。
優勝を狙うチームにとってブルペンの武器は喉から手が出るほど欲しいだけに、チャプマン、ミラーのうち1人、あるいは両方を提示すれば、かなりの見返りが期待できる。また、今オフのFAマーケットは先発投手の層が薄いだけに、ヤンキースがピネダ、26歳のネーサン・エオバルディの放出を決断した場合、複数の有望なプロスペクトが手に入る公算は強い。
常勝チームが“白旗”を上げるとき
ただ、今季の戦力ではいずれにしても世界一は至難なだけに、長い目での改革が得策にも思えてくる。ここでチーム解体し、一時的にメッツの陰に隠れることがあっても、武器がそろえば数年以内にまた追い上げられるはずだ。
新陳代謝の激しい米スポーツ界。ヤンキースが過去23年、常にポストシーズン進出するか、少なくとも終盤までプレーオフが狙える位置にいたことは驚異的だった。MLBにおいて、こんなチームはもう現れないだろう。その常勝チームがいわゆる“白旗”を上げれば、時代の変わり目と言える事件になる。
大きな飛躍の前には、得てして雌伏の時間が必要なもの。歴史的な変化の可能性が少なからずあるがゆえ、例え煮え切らない戦いを続けていても、16年のヤンキースからは依然として目が離せないのである。