らしく戦ったバイエルン、痛恨のPK失敗 崩せなかったアトレティコの堅守速攻

西部謙司

ターニングポイントはミュラーのPK失敗

名手ミュラーのPKをオブラクがセーブ。このゲームのターニングポイントとなった 【Bongarts/Getty Images】

 後半9分、アトレティコ・マドリーはグリーズマンがワンチャンスを生かして1−1。たった1本の枠内シュートを得点に結びつけた。バイエルンもクロスボールからレバンドフスキが決めて2−1としたが、まだ1点足りない。バイエルンは総攻撃を仕掛ける。すでにポジショニングもかなり崩れていて、焦りからかミスも増えたが、迫力のある攻め込みであと一歩まで迫っていた。持ちこたえたアトレティコ・マドリーの守備力を褒めるべきだろう。

 バイエルンの敗因は前半34分に名手ミュラーのPKが防がれてしまったことだ。PKを決めて2−0としておけば、アトレティコ・マドリーは前に出てくる。バイエルンにとってはずっとやりやすい展開になったはずだ。しかし1−0で折り返したことで、アトレティコ・マドリーの堅守速攻モードを崩すことができなかった。このゲームのターニングポイントだったと思う。

 シメオネ監督になってからのアトレティコは、リーガ・エスパニョーラの三番手争いから三強へ地位を上げた。スペインはレアル・マドリー、バルセロナの二大クラブが突出した存在だ。二大クラブと同じサッカーでは勝ち目がない。アトレティコ・マドリーは堅守速攻に徹して、打倒レアル・マドリー、バルセロナの看板を下ろさなかった。他チームのように“小さなレアル(バルサ)”として最高3位を狙うのではなく、徹底抗戦の構えを崩していない。バイエルンに勝てたのは幸運もあったが、もともと強大な攻撃力に耐性のあるチームなのだ。

バイエルンをバイエルン化したペップ

グアルディオラはバイエルンでCL優勝を果たせず。3シーズン連続のベスト4に終わった 【写真:ロイター/アフロ】

 ちなみに堅守速攻のチームは格下にとりこぼすケースがあるのだが、スペインは“小さなレアル(バルサ)”を目指すチームが比較的多く、ホームでは攻撃的にプレーする傾向がある。アトレティコ・マドリーの三強入りにとっては都合のいい環境があった。ただ、アトレティコ・マドリーは守備だけのチームではなく、セットプレーを含めて1点をもぎ取る力は持っていて、2点目がいらないぐらいの守備力がある。

 グアルディオラ監督は、ついにバイエルンでCL優勝を果たせなかった。しかし、バイエルンらしいチームは作れたと思う。SBをボランチ化させたり、本職のセンターバックを置かない“ゼロバック”など、さまざまなビルドアップの形を使って終始圧倒的なボールポゼッションを実現した。そのうえで強みであるウイングの活用、クロスボールを軸としたフィニッシュへのアプローチでバイエルンらしさを出した。

 バルセロナをよりバルセロナらしくしたのに続いて、バイエルンのバイエルン化にも成功したといえる。3シーズン連続のベスト4は無念だろうが、今回が最も決勝に近かった。

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著者プロフィール

1962年9月27日、東京都出身。サッカー専門誌記者を経て2002年よりフリーランス。近著は『フットボール代表 プレースタイル図鑑』(カンゼン) 『Jリーグ新戦術レポート2022』(ELGOLAZO BOOKS)。タグマにてWEBマガジン『犬の生活SUPER』を展開中

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