まだ底を出してないマカヒキ 「競馬巴投げ!第120回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

「これって……、単勝ですよね」

[写真6]エアスピネル(左)の大逆転はあるか 【写真:乗峯栄一】

 ダービー前日は超多忙だった。スポニチから「馬券の写真」が欲しいと言われ、原稿書き上げたあと梅田場外へ急ぐ。着いたのが5時5分前。場内アナウンスはしきりに「間もなく前日発売を締め切る」と警告している。 急いで地階の払い戻し所でオークス馬券を換金。63万100円。万札の厚みでズボンのポケットにうまく入り切らない。この貧乏作家にとってもうそれだけでも尋常な神経ではいられない出来事なのだ。

 階段駆け上がって二階の発売所へ。券売機の間から首を差し込み、オバチャンに口頭窓口の場所を尋ねる(“複勝コロガシ”というのは端数が出るのでずっと口頭窓口で買っていた)。しかし口頭窓口はすでに閉まっているとのこと。「仕方ない。シート塗るか」と書き出したが「え? どうやって63万100円塗ったらええんや?」。その間も窓口閉鎖のアナウンスはひっきりなしに続くし、前のオッチャンは“単・複専用”と書いてある機械に一生懸命“馬連”のシート突っ込もうとして時間は食うし、もう完全パニック状態だった。悲劇はすでに起こっていたのだ。

 スポニチ・カメラマンの前に「大変だったけど、やっと買えましたよ。はい、イシノサンデー63万100円」とニコニコしながら馬券広げたとき、カメラマンは小首を傾げた。

[写真7]長距離になればなるほど地力を発揮しそうなアドマイヤダイオウ 【写真:乗峯栄一】

「これって……、単勝ですよね」

 血の気が引くということは本当にある。夢の100万突入の“複勝コロガシ”で、ぼくは単勝馬券を買っていたのだ。

 しかしこれだけ大々的に新聞に書いている以上、複勝を買わない訳にはいかない。翌日、家中のカネを掻き集めて東上し、府中の口頭窓口でイシノサンデー複勝63万100円買い足した。イシノ流しの馬連と合わせ、この貧乏競馬人のポケットに生涯二度とない、実に130万の馬券がモゾモゾし、そして紙屑と消えた。

 元手千円の損で済むはずが、千円プラス63万100円の損となり、「最後にズッコケルぞ」の一部の予言は見事に的中。いくつかの偶然が重なり(単なるドジとも言えるが)、帰りの新幹線は乗峯・人生最大の長い長い“オケラ街道”となってしまった。単・複の買い間違い(合計126万のクズ馬券発生)のチョンボまでついて、大変な騒ぎとなった。この貴重な経験を踏まえて「複コロ初心者」に心暖まるいくつかのアドバイスをしたい。

ああ、100万と言わず、10万と言わず、1万円越えたい

 このことはもうあちこちに書いてきたのだが、この「競馬巴投げ」でも複勝コロガシやって、珍しく2連勝したので、いまのうちに書いておかないと、書くときがなくなる。ああ、100万と言わず、10万と言わず、1万円越えたい。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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