古巣愛を超えて勝利に徹したクロップ監督 敵地でのEL第1戦は上々の結果に

寺沢薫

異様な盛り上がりを見せた”クロップ・ダービー”

ヨーロッパリーグ準々決勝、リバプールの指揮官ユルゲン・クロップ(中央)が古巣のドルトムントに凱旋し、初めての対戦を迎えた 【写真:ロイター/アフロ】

 誰が呼んだか、「エル・クラシコ」ならぬ「EL KLOPPICO」。昨年10月からリバプールの指揮を執るユルゲン・クロップ監督が、初めて古巣ドルトムントと戦うUEFAヨーロッパリーグ(EL)準々決勝は、“クロップ・ダービー”として戦前から異様な盛り上がりを見せてきた。

 3月18日に組み合わせ抽選が行われて以来、ドイツではもちろん、イングランドのメディアもこの話題の波に乗っかった。同日には英国勢で唯一、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)に生き残ったマンチェスター・シティがパリ・サンジェルマンと当たることも決まっていたが、どこもかしこもトップニュースは“格落ち”のELに関するものばかり。

 英各紙はこぞってさまざまな特集を組み、たとえば『インデペンデント』紙はこのカードをリバプールにとって「シーズン最大の、そして最も感情的な」試合と位置づけた。リバプールの公式HPにも、抽選決定直後とチームがドイツ遠征に発つ直前に、クロップの独占インタビューが二度にわたり掲載されている。試合前後の会見以外で特定の試合に向けたロングインタビューを掲載するのは、昨年10月の初陣以来となる異例のことだった。

 抽選直後のインタビューで、クロップは「フットボールだけが紡ぐことができる物語」と語って再会を喜び、今も古巣のシーズンチケットを3枚持っており息子が現地観戦していることを明かすなど上機嫌だった。その後も、ドルトムントへの愛情は言葉の端々ににじみ出ていたが、一方で「個人的なことが試合の宣伝になるのは好きじゃない」「こういう騒ぎに興味はない」という類いのコメントも一貫して口にしていた。100人近いジャーナリストが集まった現地入り後の前日会見でも、ちょっとしたリップサービスは忘れなかったものの、「旧友との時間を楽しみにきたんじゃない」とお祭りムードにクギを差すことを忘れなかった。

 だから、ドイツの放送局『Sport1』が“KloppCam(クロップ専用カメラ)”を用意して当日の現場入りからスタジアムを去るまで、彼の一挙手一投足だけを視聴者に提供する計画を立てていると知れば、「クレイジーだ!」とあからさまに不満をあらわにした。「もしそれが本当なら、私は今後この局のインタビューを受けるか考えなくてはならない」という脅しまでかけた。結局、クロップカメラはリバプールのボスだけでなくトーマス・トゥヘル監督や観客席の様子などを映す“スーパーカメラ”に名前を変えることとなった。

イングランド中で評価されたクロップの姿勢

シグナル・イドゥナ・パークに集まった大観衆はクロップの帰還を大いに喜び、横断幕が何枚も掲げられた 【写真:ロイター/アフロ】

 第1戦の地であり、クロップも慣れ親しんだシグナル・イドゥナ・パークに集まった大観衆は、もちろん“王”の帰還を大いに喜んだ。「おかえり、クロップ」といった横断幕が何枚も掲げられ、中には「HELLO GOODBYE!」「ALL YOU NEED IS KLOPP, ALL WE NEED IS THIS CUP」といったように、“ビートルズ風”に愛する友へと挑戦状をたたきつける洒落たメッセージも見られた。

 試合直前、ウォームアップのためクロップがピッチに出れば、やはり大歓声。しかし、そのときの様子も『BBC』は「リバプールのボスは自分が注目の的でないことを強調したがっていた。拍手と会釈でそれに応えた後、すぐに教え子のウォームアップに集中を切り替えた」と伝えている。

『ミラー』紙の言葉を借りれば、「クロップは自身の帰還をめぐるサーカス・ミュージックを拒絶することを決めていた」のである。エモーショナルな男にとってビジネスライクな態度を貫くのは簡単ではなかったかもしれないが、情に流されるでもなく、浮き足立つでもなく、クロップはプロとして仕事に徹する覚悟で帰ってきたのだ。

 だからこそ、試合が始まり、先発に抜てきしたディボック・オリギが前半に先制ゴールを挙げれば、胸をたたいて雄たけびをあげ、戦前に宣言していたとおり、古巣に気兼ねすることなくゴールを祝った。「相手が友達だからって、勝ちたいと思わなかったことはない」。それがクロップという男なのだ。

「ドルトムントへのクロップの愛情は、レッズに対する情熱を損なわなかった」と書いたのは『デイリーメール』。同じく『BBC』もまた、「彼の忠誠心がどこにあるのか、疑いの余地はなかった」とクロップの姿勢を評価した。クロップはドルトムントを愛しているかもしれないが、それ以上に勝利することを愛している。そんな姿は、イングランド中で好感を持って受け止められた。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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