北島康介、リオ五輪に向けた最後の戦い 「幸せな」挑戦も過去とは異なる立場

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「五輪は自分を熱くさせてくれる」

5度目の五輪出場に挑戦する北島。しかし、過去とは明らかに立場が異なる 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

「4年前や8年前とは違う五輪への切符をつかみ取らなければいけない。リオのことはとりあえず忘れて、日本選手権で必ず出場権を勝ち取れるように準備をしたいと思います」

 北島康介(日本コカ・コーラ)にとって5度目となる五輪への挑戦が幕を明ける。リオデジャネイロの地を踏むことができるかどうかは、4月4日から始まる日本選手権の結果次第だ。代表の座をつかむためには、日本水泳連盟が定める派遣標準記録をクリアし、なおかつ2位以内に入る必要がある。北島がエントリーしている平泳ぎは100メートル、200メートル共に、有力選手がそろった最激戦区と言っても過言ではないだろう。若い選手も台頭してきている中で、33歳のベテランは果たして出場権を勝ち取ることができるのか。

 今大会に臨む北島の立場は明らかに過去とは異なる。4年前までは常に自身が本命だった。しかし、2013年の世界選手権を最後に国際舞台からは遠ざかり、ここ2年は日本選手権でも結果を出すことができなかった。進退を明言せず、引退かと取り沙汰されたこともある。加齢による衰え、思うような泳ぎができない苦悩。もどかしさと折り合いをつけながら、競技を続けていくのは困難を極めたはずだ。

 それでも、五輪イヤーが近づいてくると沸々と湧き上がってくるものを感じた。

「(五輪に挑戦することは)正直辛いんですけどね。5回もトライできるているのは本当に幸せだと思うし、五輪には自分を熱くさせてくれる何かがあるんだと思います」

 北島は、苦笑いを浮かべながらそう語る。

出場権を争うライバルは3人

ライバルとなるのは小関(中央)、立石(左)ら3人。北島は彼らとの戦いを制し、出場権を獲得できるか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 今年の1月は3週連続で試合に出場。自身の名前を冠した北島康介杯(東京都選手権、1月30日〜31日)では100メートルで2位(1分00秒61)、200メートルでは3位(2分10秒31)に入った。いずれも派遣標準記録(100メートルは59秒63、200メートルは2分9秒54)には及ばなかったものの、日本選手権まで約2カ月の段階では「まずまずのタイム」(北島)だった。

「自分としては満足いく泳ぎだったと思います。気持ちの面でも出し切れたし、体も使えてなおかつ動いてくれた。特に200メートルはこの4年間でもベストの記録じゃないかなと思います。選考会ではどう戦うというより、自分がどういう記録を出すかが重要だから、自分の能力を高めて、少しでも速く泳ぐことに今はフォーカスしています」

 リオ五輪の出場権を争う有力なライバルとなりそうなのは、小関也朱篤、立石諒(共にミキハウス)、そして渡辺一平(早稲田大)の3人。中でも昨年の世界選手権に出場した小関は200メートルで「2分6秒台を出す」と語っており、リオへの切符どころか山口観弘(東洋大)が持つ世界記録(2分7秒01)の更新も狙っている。最近の実績を考えれば、平泳ぎは100メートル、200メートル共に小関が本命だろう。立石はロンドン五輪の200メートルで北島に競り勝ち銅メダルを獲得。その後も2大会連続で世界選手権に出場するなど勝負強さは健在だ。また19歳の渡辺も北島康介杯の200メートルで派遣標準記録を切っており、出場権を射止める可能性は十分にある。

 しかし、彼らもまた北島の存在を気にかけている。

「意識しないと言ったらうそになります。日本選手権はプレッシャーもかかると思うので、北島さんから刺激をもらいながら、頑張っていきます」(小関)

「(北島康介杯で出した)北島さんの2分10秒31という記録は怖いですね。僕は優勝してタイム(2分9秒40)も悪くなかったのでよかったんですけど、北島さんの記録を見て驚いたし、焦りも出てきました」(渡辺)

「康介は負けることを考えない」

ハードルは決して低くない。それでも北島は期待を抱いている 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 2月のコナミオープンでは前週に風邪をひいたこともあり、万全なコンディションで臨むことができなかった。それでも100メートルは1分00秒57と1月よりもタイムを縮めた。200メートルは2分10秒88で4位と振るわなかったものの、確実に歩を進めつつある。コナミオープン後は、スペインのグラナダで高地合宿を敢行し、約3週間みっちりと泳ぎ込んだ。「良いトレーニングができた。自信を持って選考会に臨みたい」と手応えを口にしている。

 17歳で初めて出場したシドニー五輪から約16年。04年のアテネ、08年の北京と2大会連続で2冠を達成、12年のロンドンでも400メートルメドレーリレーで銀メダルを獲得した。五輪に確かな足跡を残したが、それでも北島の情熱は衰えていない。

「気づけば5回もトライしているんですね。『よくやっているな』という気持ちと、『本当に五輪に行きたいんだな』という気持ちです。そう思えている自分がいるのも不思議というか複雑というか……。『こんなにやっていていいのかな』という気持ちと、『よし、行くぞ』という気持ちが両方あったりするんですけど、状態も良くなっているし、五輪にもう1回トライするんだという強い気持ちを持って、準備をしていきたいです」

 ハードルは決して低くない。だが、抱くのは不安よりもむしろ期待だ。それはこれまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた経験による。北島を指導する平井伯昌コーチは言う。「康介は試合に臨むにあたって負けることを考えない」。日本選手権の会場となる東京辰巳国際水泳場の近くは桜の名所として知られる場所。キャリアの終盤を迎えつつある中、北島は再び満開の花を咲かせることができるだろうか。

(文:大橋護良/スポーツナビ)
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