競泳日本がリオで目指すべきチーム像 メダル量産へ、欠かせない萩野の存在

折山淑美

狙った準備が実を結んだ星、渡部

星奈津美(写真)の金メダルを含む金3銀1の結果に終わった日本。リオデジャネイロ五輪に向けて目指すべきチームの姿とは!? 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 8月2日から9日まで、ロシアのカザンで開催された世界選手権の競泳競技。メダル10個を目標にしていた日本チームは金3銀1に終わった。

 大きな収穫はこれまで男子より勢いがないと見られていた女子が、2個の金メダルを獲得したことだった。

 獲得したのは200メートルバタフライの星奈津美(ミズノ)と、200メートル平泳ぎの渡部香生子(JSS立石)。ともに運に恵まれた部分はある。だが星を指導する平井伯昌監督は「ペース練習では59秒で軽くいける時もあって、スピード面も改善していたから、相手次第で良いところまでいけると思っていた。スペイン合宿で一番の強敵と目していたミレイア・ベルモンテ・ガルシア(スペイン)が肩を故障していたのを見て、『これは狙えるな』と話をしていたんです。ただ彼女は言葉を出して自信を鼓舞するタイプではないから、『そういうことを考えるのは止めよう』などと誤魔化しながら話していました」と笑う。

 また、予想以上の泳ぎで自己記録を大幅更新し、200メートル個人メドレーでも銀メダルを獲得した渡部を指導する竹村吉昭コーチも、「200メートル(平泳ぎ)は2分20秒台を出してからは金メダルを意識するような話しはしていた。他の選手の状況を見て、大会前には7割くらいの可能性もあるのではと考えていた」と話していた。

 レース前にはともに、状況を見て明確な指示も出し、選手はそれを実行しての優勝。その意味では2人ともにしっかり狙って準備し、近寄ってきた運もつかんで手にした金メダルだった。

男子は悪い流れを断ち切れず

 一方の男子は、メダルに絡める力を持っていた平泳ぎの小関也朱篤(ミキハウス)が、ライバルたちの予想外のレベルの高さに力んでしまい、100メートルでは準決勝で敗退。自らも優勝候補と自認していた背泳ぎの入江陵介(イトマン東進)も、泳ぎのズレに加えてライバルの好調さもプレッシャーになり、100メートルでは6位にとどまる予想外の結果になった。

 そんな悪い流れの中で「練習では調子が上がってきていた」という瀬戸大也(JSS毛呂山)も、最初の種目だった200メートルバタフライ準決勝から泳ぎを崩し始め、全体3位で決勝進出を決めた後輩の坂井聖人(早稲田大)にも遅れをとる、全体6位通過になった。さらに翌日の決勝でもキレを欠く泳ぎで最初の50メートルは3番手となり、その後も順位を上げられずに失速し、6位に沈んだ。

 その動揺を抱えたまま臨んだ200メートル個人メドレー準決勝でも、泳ぎが崩れたバタフライでトップのライアン・ロクテ(米国)に0秒97差を付けられ5番手という苦しい滑り出しに。その後も得意な平泳ぎで挽回できず、2分0秒05の14位で敗退という予想外の結果。出場選手中では世界ランキングトップで臨んだ2種目で、メダルにはほど遠い大惨敗となった。

 その後も男子は悪い流れを断ち切れなかった。ランキング1位で200メートルに臨んだ入江は泳ぎの狂いを立て直せず、100メートルまでトップに立つ攻めの泳ぎをしたが、そこで力を使ってしまい後半は崩れて4位に。また小関も、1レーンだった準決勝では前半から飛ばす自分の泳ぎでトップ通過し、自信を取り戻したかに見えた。だが、4レーンで泳いだ決勝では硬さが出てしまい、前半で大量リードという思い描いていた展開に持ち込めず5位に終わった。

最終日には気持ちの立て直しに成功した瀬戸が金メダルを獲得 【写真:ロイター/アフロ】

 最終日にはやっと、「基本的なところを見直して泳ぎを立て直せた」という瀬戸が、400メートル個人メドレーで、修正をしたバタフライからリードを奪って逃げ切り、自己新で金メダルを獲得。男子メダルゼロの危機を救った。

金メダルへの強い思いが裏目に

萩野の不在は日本に大きな痛手となった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 本来なら初日の400メートル自由形で、萩野公介(東洋大)がメダルを獲得して流れを作る思惑だった。だが右ひじ負傷による欠場でそれができずに苦労した。そこでもう一度しっかり流れを作り直せる選手がいなかったことが、男子の苦戦の要因だろう。その役目を入江や小関、200メートルバタフライの瀬戸のいずれかで作ってほしかったというのが首脳陣の偽らざる気持ちだ。平井監督はこう話す。

「金3個というのは来年へ向けた明るい兆しだと思うが、全体的には見込みが厳しいと思う種目がまあまあで、いけると思っていたところがダメだったというところがあります。ただ、今回は金メダルで(リオデジャネイロ)五輪内定という条件だったので、みんなが金メダル狙いをした。もしそこで銅狙いでいけば取れたのではないかというレースもいくつかあったので、そういうのを拾えば、メダル6個はいけたのではと思います」

 瀬戸も、「400メートル個人メドレーは、今できる最高のパフォーマンスを発揮するだけだと思い、周りの選手に勝ちたいという単純な気持ちで泳げた。でもその前の2種目は金メダルで来年の五輪内定というのをすごく意識してしまって、集中できていなかったように思う」と、意識過剰を認める。男子は特に「金メダルを!」という意識が強かったからこその苦戦だったとも言える。

 だが五輪となるとまた違ってくるはずだ。「来年ももちろんみんなが金メダルを目指すと思うが、五輪は結果を残すのが大切な大会。各自が状況をしっかり見極めてターゲットにするものをキッチリ決め、持っている力を全部出して目標を達成できるようにするということを考えていかなければいけないと思う」

 平井監督がこう言うように、今度は金メダルはもちろんだが、他のメダル狙いに照準を合わせることができる。そうなれば戦い方の幅は増え、現在の戦力ならロンドン五輪のメダル量産の再現も可能だ。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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