トップスイマーたちの引き際の考え方 松本弥生と金藤理絵、最後の世界水泳
共に過去3度の世界選手権出場を誇る2人だが、それぞれ今大会が最後の舞台となることを明かした。海外のトップ選手たちと競う中で、2人は何を思ったのか。それぞれが思いを語っている。
松本「おめでとうという気持ちしかなくなった」
松本は試合後、「もう出ることはないだろう」と切り出し、リオ五輪までをめどに、現役を退く考えであることを涙ながらに明かした。きっかけとなったのは、星の金メダル獲得後のコメントだ。「今大会が最後かも」と語った星の言葉に、自身にもその思いが湧き上がった。
「昔の自分よりガツガツした感じがなくなったというのと、今までは周りの選手が活躍すると、うらやましいとか悔しいと思っていたんですけれど、今回は素直におめでとうという気持ちしかなくて……。そう考えた時に、次はないんだなと思いました」
これからの1年は、リオ五輪で決勝に進むために、女子100メートル自由形に照準を絞って強化に取り組む。残る気力をすべて注ぐ、集大成となる1年が始まった。
失意の金藤、リオに向けて迷う心
リオ五輪を見据え、金藤は昨年、自らに2つの課題を課していた。それは、14年仁川アジア大会で銀メダルを獲得した時の記録である2分21秒92よりもタイムを上げること、そして、今夏のカザン世界選手権でメダルを獲得することである。勝負を懸けて挑んだレースで2つとも目標を達成できず、彼女の心は大きく揺れた。
「昨年度よりも今年度のほうが気持ちを入れてやってきました。それなのにタイムが上がらないというのが難しいところです。今後どうやって頑張っていけばいいのかという不安があります。(リオ五輪に向けて)あと1年どう頑張ればいいのか。頑張りたい気持ちと、どうすればいいんだろうという2つの気持ちが今あります」
あまり眠れなかったという夜が明け、8日の女子50メートル平泳ぎ予選に出場した金藤は、31秒99の全体31位で最後の世界選手権を終えた。今後については「もう少し気持ちに整理をつけてから、次のステージに行かないと、また同じ失敗をする気がする」と語るにとどまった。
再び世界と戦う覚悟を持てるか?
しかし、2年ぶりに対峙(たいじ)した世界の舞台では、以前ほど気持ち的に戦えなくなっていることや、力を出し切れない甘さを痛感し、自身の引き際を悟ったのだろう。
再び世界と戦う覚悟を持つのは容易ではない。松本はリオ五輪を目指し、あと1年戦い続けることを選んだ。金藤はどんな結論を出すのだろうか。どんな決断を下すにせよ、悔いのないものにしてもらいたい。
(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)
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