トップスイマーたちの引き際の考え方 松本弥生と金藤理絵、最後の世界水泳

スポーツナビ
 ロシア・カザンで開催されている水泳の世界選手権。6日(現地時間、以下同)の女子200メートルバタフライで星奈津美(ミズノ)、翌日の女子200メートル平泳ぎの渡部香生子(JSS立石)と、日本勢は2日連続で金メダリストの笑顔が続いた。迎えた8日は一転して、松本弥生(ミキハウス)、金藤理絵(Jaked)の2人が涙を流す結果となった。

 共に過去3度の世界選手権出場を誇る2人だが、それぞれ今大会が最後の舞台となることを明かした。海外のトップ選手たちと競う中で、2人は何を思ったのか。それぞれが思いを語っている。

松本「おめでとうという気持ちしかなくなった」

「昔の自分よりガツガツした感じがなくなった」と心境の変化を語った松本弥生 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 松本は、2日に行われた女子400メートルフリーリレーに内田美希(東洋大)、池江璃花子(ルネサンス亀戸)、山口美咲(イトマン)とともに出場し、3分38秒47の全体9位で予選敗退。上位12位までに与えられる2016年リオデジャネイロ五輪の出場枠を確定させたものの、他の3人がタイムを54秒台でまとめるなか、55秒01と記録を伸ばすことができなかった。レース後には「足を引っ張ってしまった」と反省の弁を語っている。続く6日の女子100メートル自由形でも、55秒71の全体32位で予選敗退となっていた。8日に出場した自身最後の出場種目となった女子50メートル自由形も、25秒90の全体38位で予選敗退。大会中、最後まで調子が上がることはなかった。

 松本は試合後、「もう出ることはないだろう」と切り出し、リオ五輪までをめどに、現役を退く考えであることを涙ながらに明かした。きっかけとなったのは、星の金メダル獲得後のコメントだ。「今大会が最後かも」と語った星の言葉に、自身にもその思いが湧き上がった。

「昔の自分よりガツガツした感じがなくなったというのと、今までは周りの選手が活躍すると、うらやましいとか悔しいと思っていたんですけれど、今回は素直におめでとうという気持ちしかなくて……。そう考えた時に、次はないんだなと思いました」

 これからの1年は、リオ五輪で決勝に進むために、女子100メートル自由形に照準を絞って強化に取り組む。残る気力をすべて注ぐ、集大成となる1年が始まった。

失意の金藤、リオに向けて迷う心

自身で掲げた2つの目標を達成できず、金藤の気持ちは揺れ動いている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 金藤のきっかけは、7日に出場した女子200メートル平泳ぎの決勝だ。自身4度目となった同種目のファイナルは2分23秒19の6位に終わり、悲願のメダル獲得はならなかった。得意とする後半で勝負をかけようとするあまり、前半の100メートルを1分9秒96の8位と抑えすぎた。ふがいない自分の出来に、悔し涙が止まらなかった。

 リオ五輪を見据え、金藤は昨年、自らに2つの課題を課していた。それは、14年仁川アジア大会で銀メダルを獲得した時の記録である2分21秒92よりもタイムを上げること、そして、今夏のカザン世界選手権でメダルを獲得することである。勝負を懸けて挑んだレースで2つとも目標を達成できず、彼女の心は大きく揺れた。

「昨年度よりも今年度のほうが気持ちを入れてやってきました。それなのにタイムが上がらないというのが難しいところです。今後どうやって頑張っていけばいいのかという不安があります。(リオ五輪に向けて)あと1年どう頑張ればいいのか。頑張りたい気持ちと、どうすればいいんだろうという2つの気持ちが今あります」

 あまり眠れなかったという夜が明け、8日の女子50メートル平泳ぎ予選に出場した金藤は、31秒99の全体31位で最後の世界選手権を終えた。今後については「もう少し気持ちに整理をつけてから、次のステージに行かないと、また同じ失敗をする気がする」と語るにとどまった。

再び世界と戦う覚悟を持てるか?

 彼女たちは日本トップクラスの選手として長年君臨してきたが、国内では勝てても、世界では通用しない状況が続いている。その状況を打破するために、たゆまぬ努力を続け、世界と戦う覚悟を持ち続けてきた。

 しかし、2年ぶりに対峙(たいじ)した世界の舞台では、以前ほど気持ち的に戦えなくなっていることや、力を出し切れない甘さを痛感し、自身の引き際を悟ったのだろう。

 再び世界と戦う覚悟を持つのは容易ではない。松本はリオ五輪を目指し、あと1年戦い続けることを選んだ。金藤はどんな結論を出すのだろうか。どんな決断を下すにせよ、悔いのないものにしてもらいたい。

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント