選手を信じる掛布2軍監督の大きな懐=“変革”が見えつつある若虎の姿勢

岡本育子

キャンプで目立つ褒めて励ます姿

今季から就任した阪神・掛布2軍監督。春季キャンプでは選手に大きな声で励まし、褒める姿が目立っている 【写真は共同】

 高知県安芸市で行われている阪神タイガースの2軍春季キャンプ。どこにいても、すぐわかるのが背番号『31』の掛布雅之2軍監督だ。初日から早くも行われたシートバッティングで「ナイスボール」「いいよ〜その打ち方」「オッケー」「惜しいなあ」と大きな声。そのほとんどが選手を褒め、励ますものである。

「こちらが雰囲気を作ってあげないとね。声を出すきっかけを、僕が作っていこうと思っています。今の子はそんなに厳しく怒られてないからねえ。当然、厳しいことも必要だけど」と掛布監督は説明する。まだカミナリは落ちていないし、「落ちることはないでしょう。おおらかな人なので。でも僕は、ダメなことはダメという厳しい人だと思いますよ」とは筒井壮ファーム打撃コーチ。

 とはいえ、褒められて嫌がる人はまずいない。それでやる気を失うこともあり得ない。現に、投げ終えてベンチへ引き揚げる時に「グッド!」と言われたピッチャーは、はにかみながら胸を張った。もちろん注意すべき点があれば声をかけるが、何もかもを細かく言うのではなく、ひとつのきっかけを伝えるようなアドバイスだ。

自分に重ね合わせる高山&板山

 たとえば、ことし入団してきたドラフト1位の高山俊外野手(明治大)には初日のティーバッティングで「ステップの幅が少し広いんじゃないかな」と言い、同じくドラフト6位の板山祐太郎外野手(亜細亜大)には「右ひざの使い方」だけを説いた。

「今、その形を覚えておけば年を取ってからが楽なんですよ。途中で変えるんじゃなく、今のうちに土台を作っておけば。年々変化する体に対応できる土台をね。2軍キャンプ参加となったことをプラスに、彼らの野球人生にとって、いい時間にしてあげたいと思う」
 そう話す言葉の端々に“親心”が漂う。

 掛布監督が「山山コンビ」と呼び、キャンプ第1クールのMVPに選んだ高山、板山のルーキー2人。昨年10月に右手有鉤骨を手術した高山は試合にまだ出ていないものの打撃練習で非凡さを披露し、板山は初実戦で3安打と結果を出した。
「少しアドバイスするとすぐに対応してくれる。6位の板山と1位の高山か。互いにいい刺激になるだろうね。オレの時も佐野さんがいた。同じ6位と1位だな」

元監督も掛布監督の姿勢に太鼓判

 ちょうどキャンプ視察に訪れていた阪神の第22代監督で、元OB会長でもある評論家の安藤統男さんが、掛布監督の後姿を見ながら話してくれた。サードを争った1973年のドラフト6位・掛布雅之内野手(習志野高)と、ドラフト1位・佐野仙好内野手(中央大)のことを。

 まずは掛布監督の若かりし頃の印象。
「カケが入団してきたのは、俺が引退して1軍の守備コーチになった年。ヒョロヒョロしてたけど、1年後の春のキャンプでは体つきが大きく変わったんだよ。あいつはメチャクチャ個人練習をやった。あの体であれだけ飛ばすには、鍛えるしかないからね。リストの強化だと言って、ビール瓶に砂を詰めてね、その瓶の口のところに中指を差しこんで手首を鍛えたり。自分で考えてやってたなあ」

 さらに掛布監督と佐野さんの思い出から、今の掛布監督の姿勢について。
「一緒に入ってきた佐野と掛布には、1時間のうち50分くらいノックしてたよ。1年間ずっと。2人はいつもドロドロだった記憶がある(笑)。あの頃は“しごく時代”だったからね。でも今は違う。今は本人がやらなきゃいけない時代。カケはそういう変遷というか、時の流れをよくわかっている。自主練習はいいことだと思いますよ」

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著者プロフィール

兵庫県加古川市出身。プロ野球ナイター中継や、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって30年以上。ウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それから阪神の2軍を取材するようになり、はや20年を超える。

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