選手を信じる掛布2軍監督の大きな懐=“変革”が見えつつある若虎の姿勢

岡本育子

何をやるか本人に決めさせる自主練習

高い打撃センスを持つドラフト1位・高山を指導する掛布監督 【写真は共同】

 ことしの安芸キャンプで変わったことの1つに、この『自主練習』も含まれる。全体練習が終わったあとは通常、個別練習として特打、特守、特ウエートなどを行う。しかし、ことしは新たな試みとして4日に一度くらいの割合で、その時間を自主練習とし、何をやるか本人に決めさせるのだ。前夜、やりたいメニューの表に選手自身が名前を書き、当日は担当コーチがそれを指導するというシステムである。

 また朝もグラウンドで動き始める前に、ことしはベテランやルーキーに関係なく全員がストレッチや体幹のトレーニングを行っている。この“変革”に「結果がすべてですが、やってみないとわからないし、やらなきゃ結果は出ない。社長や本部長から『思うようにやってもらって構わない』と言っていただき、いいサポートをしてもらっています」とのこと。

 朝のトレーニングから全体練習、個別練習と自主練習、そして昨年までのDC(育成&打撃コーディネイター)時代にはなかったブルペン視察、さらに会議や打ち合わせなどもあり、時には自らバットを持ってノックしたり……。掛布新監督の1日は忙しくて長い。

実戦初采配に「不思議な感覚」

 11日には初采配となる練習試合が行われた。同じ高知でキャンプを張る韓国・ハンファイーグルスの1軍と対戦し、6対0の完封勝ち。2年間、DCとしてチームに関わりながらも試合中のベンチに入ることはなく、前日の練習後に「ベンチから見た野球が初めてなので、僕も選手と一緒に緊張するし、自分に期待と不安がある」と話していた監督。

「意外と9イニングは早いな。現役の時よりも」と笑ったあと、「解説をしていて見えるもの、見えないもの、ベンチにいて見えるもの、見えないものがある。選手の息遣いや汗のにおい、それに“なぜあそこで?”の理由も、ベンチなら見える。僕も1年間通して、アンテナの本数をもっと増やしていろいろなところが見えるようにしていきたい」と振り返った。

 実戦はここまで2試合で、11日に続き、14日に行われた社会人・JR四国との練習試合も、実はノーサインだった。ただ監督だけでなく、新任の平野恵一ファーム守備走塁コーチも初体験ということで、監督からコーチへのサインは出ている。選手はそれを無視してやるようにということ。試合後に「僕自身、サインで動いたことがないというか、あまりサインの出ないバッターだったからねえ。新しい野球をやってるみたいな不思議な感じ」と監督は苦笑いだった。

自分に言い訳をしない野球を

 今後は選手へのサインも普通に出される予定だが、「1人1人、自分でやっているってのを感じてくれて、自分の責任で打席を終わらせようという気持ちの強さがあった。そのあたりが去年までと変わったんじゃないかな。自分たちの野球をやっていく気持ち。たとえば、右打ちを徹底してフォームを崩すより、いい形のサードゴロを打っている方がいい。自分に言い訳をしない野球ができていた」とのこと。

“言い訳”というフレーズを、ある選手も口にした。
「追い込まれたら右方向と常に言われてきたから、どんな球が来ても、とりあえず右方向へ打っておけばいいと。そしたら凡打でも工夫はしたと説明ができる。自分にも言い訳ができる。そう思っていたのは確かです。ヒットにできる球が来たのに、引っ張らずに当ててセカンドゴロとか…。悔しかった。でももう言い訳を探さなくていい。逆に自分の責任になるから怖いけど、その方がいいです!」

 掛布監督はキャンプ初日に「1軍に送り込むため、チームで勝つ野球も教えないといけないが、選手それぞれが自覚と責任を持って1年間がんばってほしい」と挨拶をした。そして11日に完封勝ちを収めた初試合のあと、最後につけ加えた言葉が印象に残っている。

「終わってみると、こういうゲームになった。やっぱり、選手を信じてあげることだな」
 掛布監督の大きな懐の中で、選手もチームも、既に変わり始めているのかもしれない。

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著者プロフィール

兵庫県加古川市出身。プロ野球ナイター中継や、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって30年以上。ウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それから阪神の2軍を取材するようになり、はや20年を超える。

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