ユナイテッド復調に不可欠な指揮官の姿勢 ファン・ハール体制で“再出発”の向き

山中忍

「監督交代が妥当」となった前半戦

プレミアリーグ前半戦で結果を残せず、「監督交代が妥当」と言われる前半戦となったファン・ハール 【写真:ロイター/アフロ】

 メディアは相手を持ち上げてはこき下ろすのが常。名将と呼ばれるルイ・ファン・ハールとて対象外ではない。

 64歳のベテラン監督が、「さすが」と仰がれてマンチェスター・ユナイテッドに招聘(しょうへい)されたのは昨季開幕前。威風堂々の就任会見だけで、前シーズンをまさかの7位で終えたチームに「優勝」の可能性がささやかれた。だが今季は、「監督交代が妥当」と言われる中で前半戦を終えることになった。

 プレミアリーグでの結果は、開幕19戦で8勝6分け5敗の6位。首位アーセナルとの差は9ポイント。しかし、絶対的な優勝候補がいない今季だけに、まだユナイテッドの優勝争いとトップ4フィニッシュにも現実味は残されている。

 ただ、問題は内容だ。攻撃サッカーの伝統を誇るユナイテッドは、失点数をリーグ2位の「16」に抑える一方で、肝心の得点数がトップ10内ワースト2の「22」と不発だった。第19節のチェルシー戦(0−0)は、カップ戦とチャンピオンズリーグ(CL)を含めれば今季7試合目のスコアレスドロー。その中には、CLグループステージ敗退を招くことになったPSV戦も含まれる。

 変わり果てた古巣の姿を嘆く元ユナイテッドの解説陣は、ポール・スコールズ、ガリー・ネビル、リオ・ファーディナンド、マイケル・オーウェンといった具合に後を絶たなかった。ファン・ハールの就任は、デイビッド・モイーズ前体制下で失った攻撃の伝統と王者の誇りを取り戻すための監督人事だったはず。ところが、本来の「ユナイテッド色」は薄まる一方だったのだ。

ルーニーの絶不調も精彩を欠く要因に

ユナイテッドの低調は、10番を背負うキャプテンであるルーニーの不調も大きく影響した 【写真:ロイター/アフロ】

 ファン・ハールがチーム再建の手始めに守備を引き締めた判断が間違っていたわけではない。昨季は就任1年目のトップ4返り咲きという成果を前に、口うるさいメディアとファンも、最終的には堅守重視の戦術に対する不満をのみ込んだ。自身も足元でパスをつないで攻める理想を持ちながら、モイーズ時代以下と言われたスタート失敗を受けて、手堅い戦法で4位に漕ぎ着けた指揮官の現実感覚には「さすが」の声もあった。

 ただし、2年目の横ばいは許されない。ユナイテッドらしくないユナイテッドを目にする周囲の我慢は首位にも立った昨年9月後半まで。ファン・ハール解任説が強まった第16節からのリーグ戦3連敗は、ボールを支配しても怖くないユナイテッドを象徴する内容だった。3試合とも、格下を相手にポゼッションでは優位に立っていながらの敗戦だったのだ。シュートに直接つながったキーパスの本数ではボーンマスとノリッジ・シティの今季昇格組にも劣っていた。第18節ストーク・シティ戦(0−2)は、『ミラー』紙の表現を拝借すれば「監督解任に値する惨敗」となった。解雇が近いと言われる監督は「もはや選手がついてこない」と言われるものだが、ユナイテッドの場合は、むしろリスク回避の徹底を強いるファン・ハールの方針に従おうとしているがゆえに精彩を欠いているように思える。

 そこにウェイン・ルーニーの絶不調が重なった。前線にけん引役が欲しいチームにあって、10番を背負うキャプテンの前半戦は、リーグ戦14試合出場でたったの1ゴール1アシスト。得点に絡めないばかりか、不安定なボールタッチにも不振の深刻さをうかがわせた。

 ルーニーの不調は、前線の若手が過度のプレッシャーを背負う弊害を招いてもいる。昨夏に加入したアントニー・マルシャルとメンフィス・デパイ、ユース上がりのジェシー・リンガードの3名は平均年齢21歳という若さ。パフォーマンスに波があっても無理はない。その彼らが、出場するたびに救世主のような期待を寄せられる中でプレーせざるを得なくなっていった。

集団としての自信低下は監督の責任

 とはいえ、ルーニーをはじめとする先輩格の攻撃陣が、そもそも持ち味を遺憾なく発揮できる環境にいなかった事実も見逃せない。昨季開幕当初にファン・ハールからMF扱いを受けたルーニーは、その後、チーム事情に応じて、都合よくストライカーとして頼られてきた。フアン・マタは放出対象とも言われた。アンデル・エレーラは自分を獲得してくれたはずの指揮官に、中盤中央でも2列目でもレギュラーを任せてもらえない。ファン・ハールから確かな信頼を得ている攻撃陣は誰もいないとさえ言える。

 個人レベルで指揮官の信頼不足を実感していた彼らは、結果が伴わずに集団としての自信も低下し始めるうちに、指示に沿ってリスクを避けるのではなく、自らリスクを怖れるようになってしまった。メディアで度々「リーグ最多」と指摘されてきた、無難な横パスや逃げ腰のバックパスの多さがその証拠だ。この事態を招いた監督の責任は大きい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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