ユナイテッド復調に不可欠な指揮官の姿勢 ファン・ハール体制で“再出発”の向き

山中忍

監督交代が問題の解決策とささやかれたが……

監督交代を問題解決の出発点とする向きは、モウリーニョを後任の有力候補として挙げている 【写真:ロイター/アフロ】

 ファン・ハールの解任を問題解決の出発点とする向きは、一足先にチェルシーで監督職を追われたジョゼ・モウリーニョを後任の有力候補として挙げている。だが、ユナイテッドは単なる王者ではなく、伝統ある王者としての復権を目指しているのだから、2度目のチェルシー時代も攻撃的スタイルの確立に失敗したモウリーニョが長期展望での適任者だとは言い難い。

 プレミア有経験者という観点からは、前任地のサウサンプトンと現在のトッテナムで、攻撃と育成の積極姿勢を明確に示しているマウリシオ・ポチェッティーノの方がユナイテッド向きだろう。しかし、今季中の引き抜きは不可能。識者間でも「理想的」との声が強いジョゼップ・グアルディオラも同様だ。助監督のライアン・ギグスに暫定指揮を任せて繋ぐ手はあるが、モイーズ後を引き受けた前回以上に内容と結果の即両立を要求される状況は現在のギグスには荷が重い。

最優先はゴールゲッターの獲得

今冬の獲得候補に挙げられているサウサンプトンのサディオ・マネ 【写真:アフロ】

 クラブのフロントはファン・ハール体制で乗り切る意向のようだ。就任後の過去3度の移籍市場に約450億円もの補強予算を投じているにもかかわらず、今冬も即戦力獲得予算を指揮官に与える構えを見せている。最優先はゴールゲッターの獲得。噂の候補はエディンソン・カバーニ(PSG)から武藤嘉紀(マインツ)まで多彩で、サディオ・マネ(サウサンプトン)の線が現実的と見られている。

 だが、最終的に誰が加入したとしても、攻めの姿勢なくして得点増は難しい。ファン・ハールは、指示通りに選手たちが実現しているポゼッションの主目的を、「敵に攻めさせないため」から「敵を攻めるため」へと変更しなくてはならない。

 当の指揮官が少しばかり積極性を見せた1月2日の20節スウォンジー・シティ戦(2−1)では、CL戦を含めて9試合ぶりの白星が実現した。両軍無得点に終わった前半はユナイテッドファンも不安といら立ちを募らせたが、3−4−2−1システムのウィングバックとして攻撃参加を期待されていたアシュリー・ヤングが後半2分に絶好のクロスを送り、リーグ戦では過去3カ月半で2点目となるマルシャルの先制ゴールを演出。同点にされた6分後の勝ち越し点は、左サイドを突破したマルシャルの折り返しをバックヒールで流し込んだルーニーの2カ月ぶりのゴールだった。

 無論、一朝一夕にユナイテッドらしい姿が戻るはずはないが、その変化に不可欠な指揮官の姿勢は本人の気持ちひとつで変えられる。攻撃陣の中でも最もゴールが欲しかった両FWの自己表現による勝利は、ファン・ハールがチームをリスク回避の呪縛から解放するきっかけとなるべきだ。試合後、自ら「出発点」という言葉も口にした指揮官が「長丁場」を強調したシーズンの行方には、積極姿勢を増して優勝戦線に踏みとどまったユナイテッドのトップ4に、メディアが再び「さすが」とファン・ハールを評する結末もあり得るのだから。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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