若年層が強くなるために――東京五輪を見据えたボクシング界の育成
プロの名門で育った五輪メダリスト候補
世界挑戦経験もある元プロボクサーの好二氏(右)を父に持つ松本圭佑。アマチュア界で注目の存在だ 【写真は共同】
松本の中学時代は20戦全勝(10KO)。高校3年間で計8回行われる全国大会でも、史上初の「8冠王」を期待された(過去最高は、粟生隆寛、大迫亮、井岡一翔、李健太の6冠。井上は高校タイトルに限っては5冠)。ところが今年、最初のインターハイから試練が待っていた。決勝で松本は、アジア・ジュニア選手権で日本初の金メダルを獲得した中垣龍汰朗(日章学園高校1年)にポイント負けを喫したのだ。
一長一短のプロとの実戦練習
今年のインターハイ・ライトフライ級決勝で松本(右)を破った中垣(左) 【写真は共同】
「パンチをもらわないことはもちろんだが、自分が真ん中に立って、圭佑を動かす展開を維持していこうと思っていた」(中垣)
この強みは、試合後の松本も理解していた。
「龍汰朗は前に出ながら先手を取って、打ったら移動を繰り返せば、見栄えがいいのを知っていた。その点で、自分には長丁場の消耗戦を意識したプロボクサーとの実戦練習が、今は長所にも弱点にもなっている」(松本)
ある意味では己の文化をひとつ否定された松本だが、自暴自棄になるどころか、むしろ立ちはだかった課題とポジティブに向かい合い、「夢は東京五輪」と目を輝かせている。
「実戦的選手」を急増させた『U−15』
それをどこよりもじれったく感じていたのは、プロボクシング界かも知れない。小中学生の大会の開催に医学関係から異論があったことで足踏みを続けるアマ連盟を背に、プロボクシング協会は小中学生の公式大会を、極力、安全面を強化して開催した。このカテゴリーは『U−15』と呼ばれるようになり、またたく間に実を結んだ。基礎技術を学び始める年齢だったはずの高校1年生たちから、全国大会で上位に食い込み、「実戦的選手」が急増し、少子化、性格の草食化、K−1など別格闘技の台頭などによる衰退を一気に挽回させて現在にいたっている。
“即席栽培”を脱却した高校ボクシング界
「入学して2年半後に待っているインターハイの結果を問われる以上、指導者には、その場しのぎの“即席栽培”をどうできるかのセンスが問われてしまう。早い時期ほど、止まらない手数で“押しきる攻め”が有効で、本格的なボクシングを学ぶなら、3年生になるころまで、他校の即席栽培に劣勢を強いられてしまう」
この常識は覆されつつある。五輪を目標とする日本ボクシング連盟も、12年から小中学生の男女を対象に「幼年大会」を開始。高校生を「少年」と呼ぶことから、当初は「幼年」と呼ばれるようになったが、さすがに中学生には違和感が否めず、現在は「アンダージュニア」と呼ばれている。ジュニアとは国際的には15歳、16歳の呼称で、ユースが17歳、18歳の呼称だ。今年のインターハイではアンダージュニアから試合経験を積んできた5人の1年生が決勝に残った。