若年層が強くなるために――東京五輪を見据えたボクシング界の育成

善理俊哉

日本のニューウェーブだった井上尚弥

昨年12月に世界最速でのプロボクシング2階級制覇王者となった井上尚弥も小中学生から実戦経験を積んだ一人 【写真は共同】

 小中学生の育成において、現時点での最高傑作は現プロボクシングWBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)だろう。最初に出場したアジア・ユース選手権や世界ユース選手権では、国際大会で勝つコツをつかめずにいたが、短期間で一人前以上の日本代表となり、ロンドン五輪アジア予選では、決勝で強豪国カザフスタンのビルジャン・ジャキポフに善戦。敗れて本戦出場を逃したものの、18歳で翌年の世界選手権で優勝するベテランと渡りあったこと自体、日本にとってはニューウェーブそのものだった。

 井上は言った。
「自分の小中学校時代は、今ほど育成システムが確立されていなかった。試合に恵まれた次の世代はもっと世界で勝てるようになる」
 仮に井上が東京五輪を目指していれば、堂々の金メダリスト候補になっていたのは間違いない。

強くなるために良く学び、よく遊べ

井上尚弥と同学年で記録争いをしていた拓大・藤田。強くなるためには「技術を盗む意識や創意工夫が必要」と語ってくれた 【善理俊哉】

 着実に進化を続ける小中学生の「実戦教育」。ただ、ここで育った選手が必ずしも無敵なわけではない。インターハイの2カ月後、国体の決勝で松本を破ったのは、高校でボクシングを始めた永田丈晶(熊本工業高3年)による「押しきる攻め」であったし、大学ボクシング界でも、高校でボクシングを始めた選手たちが、小中学校からのエリートを超えるケースはざらにある。

 では今、抜群になるためには何をすべきか。東京五輪のヒーローをどう育てるべきか。井上尚弥と同学年で記録争いをしていた藤田健児(拓殖大学4年)は、世界のトップを意識する上で、こんな持論を口にした。
「日本の成績はロシアやキューバ、カザフスタンより圧倒的に劣るわけですから、技術を盗む意識や創意工夫が必要だと思いますね。人より早くボクシングを始めても、同じ動きの完成度ばかり高めていたら、“ボクシングが大学1年から4年まで変わらなかったね”って言われると思います」
 大人になっても人間は、よく学び、よく遊べということだろうか。

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著者プロフィール

1981年埼玉県生まれ。中央大学在学中からライター活動始め、 ボクシングを中心に格闘技全般、五輪スポーツのほかに、海外渡航を生かした外国文化などを主に執筆。井上尚弥と父・真吾氏の自伝『真っすぐに生きる。』(扶桑社)を企画・構成。過去の連載には『GONG格闘技』(イースト・プレス社)での『村田諒太、黄金の問題児』などがある

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