アメリカズカップへの尽きない情熱 早福和彦が積み重ねてきたキャリア

中山智

あるトップセーラーとの出会い

 ベイガルベイチャレンジでの経験はあったものの、1995年の大会ではまだまだ新人ということで、下っ端のクルーとしてバウマン(艇の前方でセールの出し入れや他艇との位置関係を把握しほかのクルーに伝える作業などを行う)を担当。ちなみにバウマンという担当自体は現在のチームでも変わっていない。

 ニッポンチャレンジは1995年の大会に続き、2000年の大会にも参加。早福も引き続きクルーとして参加していたが、ここで「今の自分があるのは彼との出会いが大きい」と語る人物、ピーター・ギルモアと出会う。ギルモアはマッチレースの世界大会で何度も優勝し、世界ランキング1位にもなっていた。この世界有数のトップセーラーが2000年の大会ではニッポンチャレンジの監督に就任していた。

ピーター・ギルモア(左奥)との出会いが、早福にとって1つの転機となった 【写真は共同】

 早福はこの2000年の大会で、ギルモアからマネジメントの仕事も任されるようになり、世界トップクラスのセーリング技術だけでなくチームの運営なども学んでいく。

 2000年以降日本からのアメリカズカップ挑戦が途絶えてしまったため、ギルモアがアメリカのシアトルから参加した「ワンワールド・チャレンジ」へスキッパー(艇長)として移籍。アメリカチームながら、インターナショナルなメンバー構成となっていたこのチームに早福も加わり、さらなるセーリング技術の習得と、世界レベルのチーム運営を学んだ。

 ワンワールド・チャレンジでは、アメリカズカップ本戦への出場権を懸けた戦いで敗北。このときにアメリカからの挑戦権を獲得したのが、現在アメリカズカップを保持しているオラクル・チーム・USAだ。実はワンワールド・チャレンジは立ち上げ当初、ネクステルという通信会社がスポンサーとなっていた。このネクステルは現在スプリントという会社になっており、ソフトバンクグループの企業だ。早福は「今回ソフトバンク・チーム・ジャパンの総監督として声をかけてもらい、アメリカズカップに参加してオラクル・チーム・USAと戦えるというのは、不思議な縁を感じる」と感慨深げに語る。

求められる後継者の登場

今回のクルー募集をきっかけに、早福の後継者となる人物の登場が望まれる 【(C)Softbank Team Japan / Photo Rick Tomlinson】

 このようにセーリング競技をまったく知らない素人の状態で、アメリカズカップに飛び込み、挑戦チームの総監督までキャリアを積んでいったのが早福和彦という人物だ。

 11月末に行われる選考会について早福は、「今回はグラインダー(セールなどをコントロールする役割を担当)に限って募集している。ですが、そうなると年齢や体力、敏しょう性など条件が厳しくなって門戸が狭くなってしまう。それよりも、私と同じように『世界に出て戦ってみたい』という大きな志を持った人にチャレンジしてほしい」と語る。さらに「自分自身の年齢もあり、セーリング技術だけでなくチーム運営やアメリカズカップに懸ける情熱をバトンタッチできる人」を待っているという。

 セーリング競技に限らず、スポーツは継続性が重要なポイント。今回のクルー募集をきっかけに第二、第三の早福和彦が登場することが、日本人や日本チームがアメリカズカップを手にするプロパーコース(ヨット競技でフィニッシュまでの最短コース)となりそうだ。

(協力:ソフトバンク・チーム・ジャパン)

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著者プロフィール

1974年生まれ。本業はITやモバイル業界をメインに取材・執筆をしているフリーライター。海外取材も多く、気になるイベントはフットワーク軽く出かけるのがモットー。大学在学中はヨット部に所属し、卒業後もコーチとしてセーリング競技に携わっている。アメリカズカップのリポートをとおして、セーリング競技に馴染みのない人たちへヨットの認知度アップを狙っている

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