悩ましい「燃え尽きたい」球児の思い 高野連・八田英二新会長に聞く(後編)

松倉雄太

考えていくべき女子高校野球の課題

2014年の大会で4連覇を果たし、5連覇を目指す女子野球日本代表だが、そのトライアウトに高野連所属の1、2年生は参加できない 【Getty Images】

――女子選手のことについてお伺いします。来年韓国で行われる女子野球ワールドカップの日本代表トライアウト要項に、日本高野連所属の1、2年生は受験ができないとありました。今後、女子選手についてはどう考えられますか?

 問い合わせはものすごくありますし、実は先日の会議でも案件が出てきました。ただ(女子)プロとの絡みがあります。日本高野連としてもこれからまさに女子部員についての取り扱いを考えていかなければいけないと思います。

 現在のシステムはいびつで、プロ志望届についても大会に出場できない部員でありながら、提出をしなければならない。以前、脇村春夫・元会長は「(女子選手の公式戦出場も)やったらどうだ」とおっしゃられていました。ただ他のスポーツを見ても男女混合で行う球技はない。なぜ、野球だけこの意見が出てくるのかなという思いはあります。

 試合に出られないのであったら女子マネージャー以外は認めないでおこうというのも一つの考えだし、あるいはトライアウト参加や、例えばある選手がA校では野球部員だけど、女子野球の選手権には出られるなど柔軟に考えていくことも一つの考えです。それに大学や社会人は試合出場を認めています。そういったことを含めて、今後どうするのか。大きな課題になっていきます。

より国際的なものに視野を向けて

――今後高校野球がこう発展してほしいという理想はありますか?

 野球経験のある私の教え子からも、「先生、私を育ててくれたのは高校野球です」という声をたくさん聞きます。体育会のスポーツ活動は人格形成の側面を持つと私は考えています。課外活動が人格形成の一環であることがもっと社会的に認知されてほしいし、ある程度認知されているからこそ、少子化の中でも部員数が約17万人と高い数字を維持していると自負しています。

 「自分が高校野球のクラブ活動で身に付けたものは人格形成である」と言えるような学生野球にこれからもしていきたい。高校野球には球児という言葉があるように、これは一つの日本の文化です。若人の人格形成に与える影響はすこぶる大きいという社会的な認知度を今後とも高めていきたい。

 人々に感動を与えるものは何かと考えると、試合自体だけではなくて、背景にある彼らの汗と涙の努力やフェアプレーの精神こそが観客に感動を与えていると思います。だからこそ高校野球は一つの文化になっていると考えます。もっと社会の方々に知ってほしいし、それが会長としての大きな使命。だからこそ教育者である私が奥島前会長の後に選ばれたのではないかと思っています。

 私は高野連をめぐるステークホルダーは3者あると考えています。高校野球の選手たち、保護者、そして監督・指導者・先生方です。特に高校球児というのは成長途上の少年ですから、彼らの人格形成を負託された保護者の方々のご意向もくみたい。実際、保護者の方々の高校野球に対する期待は想像以上に大きいとみています。

 それぞれの方々がどういう要望を持っておられるのか、これからも問い続け、改革を進めていきます。教育の一環という理念を追い求めるためにどうしたらいいか。その中でプロとの関係、中学校や小学校の野球との関係、あるいは社会人野球との関係などを整理していきます。

 プロとの問題は、志望届や資格回復などある程度の交通整理ができるようになってきたと思っております。いよいよ私の代では国際的、グローバル的なものへも目を向け、大きく前進をしていきたい。

――最後に今の高校球児にメッセージをお願いします。

 高校野球を始めたからには3年間続けてほしい。その見返りというか、3年間のクラブ活動は必ず実を結びます。人間として一回りも二回りも大きな成長を遂げることになります。これは保護者の皆さんにも伝えたい高野連からの強いメッセージです。かつて20年程前には3年間クラブ活動を続ける部員は70%を切っていました。しかし今や90%もの学生が黙々と3年間続け、卒業していきます。

 これは本当に嬉しい傾向です。それなりの見返りは十分あるのです。高校での3年間で知識を身につけるのは言うまでもありませんが、知識以外の人格形成への寄与も学校教育の社会的な使命です。高校野球で言えばクラブ活動で生き抜く知恵を身につけていただきたい。大きな志を持って3年間続けてほしいと願っています。そして誇りを持って、「私は○○高校野球部出身です。知識は教室で、知恵は野球で得ました」と言える人になっていただきたい。

八田英二氏プロフィール

球児たちには「3年間続けてほしい」という思いを語った八田会長 【スポーツナビ】

1949年3月20日生まれ。同志社大学大学院経済学研究科修士課程及びカリフォルニア大学バークレー校経済学Ph.D.コース修了後、85年から同志社大学経済学部教授を務める。98年から2013年までは同学の学長も歴任。08年から日本学生野球協会会長、10年からは全日本野球協会会長を務め、今年9月に奥島孝康前会長の後を受けて日本高等学校野球連盟の会長に就任した。

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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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