プロ輩出率No.1徳島が抱える野球危機 県外に出る有望選手、低下する体力

中島大輔

プロ野球選手輩出率が最も高い徳島

今夏の大会で初戦敗退した徳島・鳴門高。プロ野球輩出率は最も高いというデータがあるが、県を代表する監督たちから聞かれたのは危機感だった 【写真は共同】

 100周年を迎えた夏の高校野球大会が終わり、8月28日に開幕した18歳以下のワールドカップで高校日本代表は快調な戦いぶりを見せている。そんななか、蚊帳の外に置かれた格好なのが四国勢だ。甲子園では4校がすべて初戦敗退に終わり、U−18W杯ではひとりも日本代表に選出されていない。

 だが、果たして四国は本当に衰退傾向にあるのだろうか。

 スポーツナビがそんな疑問を抱いたのは、この夏に行った「高校野球の都道府県別事情」(下記リンクのコラム)で興味深いデータが出たからだ。全国のプロ野球選手輩出率を調査したところ、徳島県が最も高かったのである。

 徳島は全国で唯一、夏の甲子園出場をすべて公立高校が占めてきた。さらに言えば、県内31の硬式野球部のうち、私立は武田久(北海道日本ハム)を輩出した生光学園高しか存在しない。公立王国がなぜ、高い比率でプロ選手を育てあげているのだろうか。

徳島の名将が口する危機感

「たまたまだと思いますよ。ただ昔から、プロに行っている選手は多いですね」

 そう話したのは、2015年から早稲田大学野球部を率いる高橋広監督だ。大学球界で指揮を執る前は、鳴門工業高を率いて02年のセンバツで準優勝を果たしている。捕手の育成に長け、里崎智也氏(元千葉ロッテ)、渡辺亮(阪神)ら計6人をプロに送り込んだ。

「全国1位というのはびっくりですね。ただ、率から言えばそうかもしれないけれど、他県より人口が少ないですから。プロに入っている人数で言えば、多くないですよね」

 こう語ったのが、池田高で指導する岡田康志監督だ。現役時代は1979年夏の甲子園で準優勝を果たし、監督としては91年から2年続けて夏の全国大会出場に導いた。14年には27年ぶりのセンバツ出場を果たしている。

 両監督ともに、むしろ口にしたのは危機感だった。現在、徳島では深刻な地盤沈下が起きている。最たるものが、人口減少だ。
 徳島県のホームページによると、50年の87万9000人をピークに、13年には推計77万人まで低下。生産年齢人口(15〜64歳)は85年の55万4000人をピークに、10年には47万2000人まで減り、40年には28万9000人になる見込みだ。年少人口(14歳以下)は10年が9万7000人で、40年には5万3000人と半分近くになる見通しである。

 人口が減れば、必然的に野球をする高校生も少なくなる。池田高で指揮する岡田監督は、身をもってそう感じている。

「子どもの絶対数が減っているので、池田でも10年後、20年後、野球部の存続がどうなるか。全国で勝つというレベルではなく、野球部の運営危機を回避しなければいけません。三好市と池田地区の高校は2年後にひとつに統合され、ふたつの分校になります。それが10年後にはひとつになっているかもしれない。私たちのように、田舎では悩んでいる学校が多いと思います」

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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