海外転戦で成長続ける理論派ジャンパー 初の世界陸上へ、23歳戸邉の現在地

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海外転戦2年目を迎えた走り高跳びの戸邉直人に、初の世界選手権に臨む思いなどを聞いた 【Getty Images】

 陸上日本選手権・男子走り高跳びを4年ぶりに制してから約2週間が経った7月10日、戸邉直人(とべ・なおと、つくばツインピークス)は欧州の拠点であるエストニア・タリンにいた。

 戸邉は、日本記録にあと2センチと迫る2メートル31の自己ベストを持つ、陸上界期待の23歳だ。2004年アテネ五輪優勝のステファン・ホルム(スウェーデン)の拠点を訪れた大学3年の冬、走り高跳びに特化した欧州式の練習法に感銘を受け、欧州行きを決意。2014年に筑波大を卒業した後は、「この1、2年はある程度は自分の思い通りにやりたい」と、実業団には所属せず、同大学院に進学。現在は、自らを被験者とした走り高跳びの研究を続けながら、世界最高峰のダイヤモンドリーグをはじめとした海外の試合を転戦している。昨年は3度の遠征で、合わせて3カ月ほどを海外で過ごし、ボーダン・ボンダレンコ(ウクライナ)やムタズ・エサ・バルシム(カタール)ら、2メートル40台の自己ベストを持つ世界のトップ選手と競い合ってきた。

 この日は、欧州遠征の2戦目を終えてタリンに戻り、次戦に向けて調整をしているところだった。この遠征を終えた後は、いよいよ、自身初となる世界選手権(8月22日開幕、中国・北京)の大舞台が待っている。東京五輪での金メダルを目標に掲げる若き逸材は今、何を思うのか。海外選手との交流や、今後の展望などを聞いた。

海外転戦でより高い目標に変化

4年ぶりに優勝した日本選手権の直後、戸邉はエストニアへと向かった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――日本選手権が終わってからすぐに、タリンに移動し、フランス・パリとハンガリー・ブダペストで行われた試合にそれぞれ出場しましたが、いかがでしたか?

 パリのダイヤモンドリーグは、試合の4日前に出場が決まったので、ほとんど準備せずという感じでした。記録は出ませんでしたが(2メートル24で9位)、調子自体はかなり良いなと感じながら試合はやっていました。ブタペストの大会は、パリの疲れがある中でしたが、それでも2メートル27は跳べました。これからしっかり準備をしていけば、かなり記録は出るんじゃないかと感じています。

――国内の大会に出るのと、自分よりも実力的に勝る選手しかいない海外の大会に出るのとでは、やはり感覚的に違いますか?

 今、自分の置かれている環境は、2メートル30を跳ばないと話にならないようなところです。そうなってくると、自然と1試合1試合の目標も上へと上がっていきますし、練習の中で求めるものも、潜在的なところでより高いものへと変わってきます。環境の違いというのはかなり大きいですね。

――ボンダレンコ選手やバルシム選手ら、2メートル40を超えるような記録を持つトップ選手と試合をしていますが、彼らの動きを間近に見て学ぶことは?

 僕はどちらかというと、技術的に高くはありませんが、世界トップクラスの選手は技術的にもかなりまとまっています。今はいろいろな選手から、いろいろなことをかいつまんで参考にしようと心がけています。最近(気になったの)は、今シーズン2メートル38を跳んでいる張国偉選手(中国)。パッと見ると「この選手、うまくないな」と思うようなフォームなのですが、それでも「ここだけやれば大丈夫」といったポイントをしっかりと合わせてくるような、本当に今までにいなかったような選手です。すごく面白いなぁと思います。

世界トップ選手は「ライバルであり友達」

前回の世界選手権2位のバルシム(左)とは、SNS上で交流もあるという。中央は優勝のボンダレンコ、右は3位のデレク・ドルーアン(カナダ) 【Getty Images】

――ダイヤモンドリーグなどで一緒になる海外選手との交流はありますか?

 試合前はほとんどの選手と一言、二言交わしますし、バルシム選手とは、たまにSNS上でやり取りがあったりします。最初にダイヤモンドリーグに出た時は「わぁ、すごい選手がいっぱいいる!」という感じでしたが、もう何大会も出ていますし、そうなってくると、試合の時の宿泊も同じホテルなので、ご飯を一緒に食べたり、試合の中で何か話したりとか、そういうことが増えてきます。ライバルではありますが、ある意味友達というか。試合の外ではけっこう和気藹々(わきあいあい)とやっています。

――そうなると、世界選手権や五輪などの大舞台でも、気持ち的に少し余裕が持てますね。

 そうですね。世界トップの試合に行っても、いつものメンバーと言ったら変ですが、顔見知りの人たちとの試合という感じなので、必要以上に構えることがなくなりますし、精神的にかなり変わってくると思います。

――日本になじみの薄いエストニアを拠点にしていますが、当初は文化や言葉の違いで苦労もあったのでは?

 うーん……あまりないですね。どちらかと言うと、どこに行っても対応できるタイプだと思います。でも、試合でいろいろと回っていると、欧州の中でも1カ所に滞在することが少ないので、移動疲れはけっこうあります。この前も最初にタリンに着いて、次の日にパリに行って試合をしたら、次はブタペストに行って……という感じで、いろいろな所を転々としていました。それでも、ホームシックになったことは今までにはありません。

――日本滞在中は大学院での研究もあります。練習、研究、海外転戦と相当ハードな毎日だと思いますが?

 けっこう両立が難しいなと思うこともあります。でも、だいたい欧州に行く時は学校の課題を持ち込まないようにしています。日本に帰ったらすごく忙しくなりますが、一応そこはしっかり分けてやれるように頑張っています。

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