海外転戦で成長続ける理論派ジャンパー 初の世界陸上へ、23歳戸邉の現在地

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「目に見えるもので理想形をつくりたい」

重点を入れて取り組んでいるのは助走。いろいろなパターンを試しながらベストなものを見つけていく 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――今季は2メートル25以上を安定的に跳べるようになってきました。

 今季は左アキレス腱痛の影響で少し出遅れました。ケガをしている間は専門的なトレーニングができなかったので、ずっとウエートトレーニングなどの体力的なものに取り組んでいました。どちらかというと、技術的には去年よりも今は低い状態だと思うんですけど、昨年から今年にかけて体力的には上がっています。単純に踏み切りで大きな力が出せれば、それだけ体は高く上がってくれますから。それが今年の記録につながっているのかなと思います。

――技術的な面で今季、重点に取り組んでいることは?

 今一番力を入れているのは助走の部分です。やはり助走がうまくいかないと、踏み切りも空中動作もうまくいかなくなってくるので、まずは助走を固めることがすごく大事な作業だと思っています。助走の安定を考えると、反復練習が一番大事になります。走り高跳びは助走でカーブを描くのですが、どれくらい大きくカーブを膨らますかで無限大に(助走の)パターンができます。なので、できるだけ一つのパターンに固執せずに、いろいろと試して、その中で良いものを選んでいくようにしています。

――助走の一歩の大きさが少しずれるだけでも、感覚的にはかなり変わってくると思いますが、それは助走の途中で分かるものなのですか? その時はやはり体が固まってしまうのでしょうか?

 力んでしまった場合は「今、力んだ」というのは分かりますし、本当に踏み切りの一歩前や踏み切る時になって、バーに対して「あ、ちょっと近すぎるな」とか「遠すぎるな」という時があったりします。いつも通りにやっていると自分では感じていても、外から見たら全然違うことをしていたということもあったりして、本当にいろいろですね。

――以前、日本のコーチが持つ職人的な考えがあまり好きではないと話していましたが、そういった繊細な感覚は、一方でとても職人的にも思えます。

 人間の動きなので、完全に理論化することはかなり難しい。そうなってくると、最終的には動く本人の感覚的な部分になってきます。ただ、それを曖昧なものにしたままだと、はっきりしないまま終わってしまうというか。よく分からずに「良かった」「悪かった」と、本当に感覚的な判断にしかなりません。より(記録を)伸ばすことを考えると、それはあまり良くないというのが僕の考えです。実際には、自分の感覚と向き合いながらやっていくのですが、その中で几帳面にやるところは几帳面にやって、目に見えるもので理想形をつくっておかないと、より高いところにはいけないし、より安定するにはそういったものが必要だと考えています。

東京五輪金メダルへ「短期的には失敗してもいい」

最終目標は東京五輪の金メダル。今は結果に「一喜一憂しないようにしている」と冷静さを見せる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――かねてから、2020年東京五輪での金メダルが目標と公言しています。その中で今夏の世界選手権、来年のリオデジャネイロ五輪はどのような位置づけですか?

 世界選手権は、まずは決勝進出が目標で、その上でどこまでいけるかを試す大会にしたいと思っています。記録はやはり自己ベスト以上で、できれば日本新記録(2メートル34)が本番で出たらいいですね。これからの仕上がりにもよりますが、今からうまく技術的にまとめられれば、(記録更新は)60〜70パーセントの可能性でいけるんじゃないかとは思っています。

 リオデジャネイロ五輪では、メダルに絡むところまでいきたいです。そのためには、2メートル37〜8くらいは絶対に必要になってくる。まずは、自分がそこまで力をつけないといけないと思います。

――メディアでの露出も増えて注目度が上がってきていると思いますが、周囲の期待やプレッシャーはどう感じていますか?

 かなり露出は増えてきましたが、2020年という大きな目標に向けて、今はまだ全然道半ばと考えています。長期的に成功することを一番の目標に置いているので、短期的には失敗してもいいと思っていますし、その失敗の中でいろいろ試行錯誤すればいい。短期的なところでは、あまりうまくいった、いかないで一喜一憂しないようにはしています。プレッシャーは、これから何年かしたら出てくるのかなとは思いますが、(今は)まだあまり感じてはいません。

――筑波大卒業後は「14、15年の2年間は自由にやって経験を積みたい」と、実業団に所属しない競技生活を選択しました。その2年目を迎えた今、思い通りに進んでいますか?

 欧州に行って大きな試合にもたくさん出ましたし、経験という意味ではかなりの収穫があって、すごく良い感じで来られているというのは、今、感じています。ここから先、より上のレベルに行くためには結果が必要になってくるので、この先は結果にこだわってやっていきたいです。ただ、それもやはり今まで積んできた経験の上での結果を目指しているので、スタイル的にはこれまでのものを継続していくつもりです。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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