世界3位、日本のリレーはなぜ強い? 陸連・苅部部長に聞く新バトンパスの秘密
日本の“お家芸”400メートルリレーの強さの秘訣を苅部俊二短距離部長が語った 【写真は共同】
400メートルリレーにおける日本の強さを支えてきたもの。それは正確かつスムーズなバトンパスだ。世界の多くの国では、バトンを受け取る側が、手のひらを上向きにしてバトンを受ける「オーバーハンドパス」を採用している。一般的に体育の授業などで習うのもこの方法で、受け手と渡し手の両方が手を伸ばすため、距離が稼げるのが利点だ(これを「利得距離」と呼ぶ)。一方、日本代表が採用しているのは、技術的により高度な「アンダーハンドパス」と呼ばれる方法。受け手が手のひらを下に向け、渡し手が下から上方向にバトンを差し出す。腕を伸ばさない分、利得距離は稼げないが、より走る姿勢に近い状態でパスができるので、減速が少ないというメリットがある。日本は、このアンダーハンドパスに磨きをかけることで、個々の走力以上の結果を残してきたのだ。
日本陸上競技連盟(陸連)の苅部俊二短距離部長によると、このバトンパスが今、さらなる進化を遂げつつあるという。新しいアンダーハンドパス誕生の裏側と、日本が結果を残し続けられる理由を、苅部氏に聞いた。
大議論の末に誕生した新アンダーハンドパス
アジア大会の400メートルリレーでは、中国が37秒99のアジア新をマーク。日本は2位に甘んじた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
00年まではオーバーハンドをやっていましたが、高野(進)先生がアンダーハンドを採用しました。そこからずっと、日本は(五輪、世界選手権の)400メートルリレーにおいて、11年のテグ世界選手権以外は決勝に残っています。アンダーハンドは結果も実績も残しているので、それを今オーバーハンドに変えることは得策ではありません。
ただし去年、中国にやられてしまいました(編注:10月の仁川アジア大会で中国がアジア新となる37秒99で優勝、日本は2位だった)。アンダーハンドで日本独自の何かをつくっていかないといけないというのは、前から思っていたこともあり、今年、少しやり方を変えました。
――今までより腕を、より伸ばして渡すやり方に変えたと聞きましたが
(2月の)ナショナルリレーチームの沖縄合宿の時に、(陸連短距離副部長の)土江(寛裕)コーチに「ちょっと新しいアンダーハンドをやっていこうよ」という話をして。それで合宿の時に選手に話をしたら、富士通の高平(慎士)選手が中心になってくれて、ビデオを見ながら、大議論ですよ。夜のミーティングで、もう何時間やったかという感じでした。新しいバトンパスを私たちがやりたいというのを、選手がくんでくれて、「こういうのはどうですか?」「じゃあやってみよう」と。手の角度などまで細かくやりましたね。
大きかった経験豊富な高平の存在
受け手が手の平を下向きにして、バトンを受け取るアンダーハンドパス 【写真:アフロスポーツ】
全員ですね。ただ、ぽかんと聞いている人もいました。今までの経緯がない選手はなかなか理解するのが難しかったようです。でも、高平選手は今までリレーをずっとやっていて蓄積があるから、「こういうふうにやってみよう、ああいうふうにやってみよう」となって「ああ、それ良いね。じゃあ明日やってみよう」と。それで次の日にやって、全部ビデオで撮りました。それをスローだったりいろいろな角度から見たりして、タイムを取って……。そしてまた、こうでもない、ああでもないというのをずーっと、本当に何時間も繰り返してやってきました。そうしていくうちに、ある程度の完成形が見えてきて、3月のテキサスリレー(米国)、5月の世界リレーと続くわけです。だから、少し効果が出ているかなという感じはあります。そこに高平選手がいなかったのはすごく残念ですね。彼が一番、先頭を切ってやってくれたので。
――修正されたのはどのあたりでしょうか?
細かいところはいろいろとあるのですが、大きなところは利得距離です。アンダーハンドで一番デメリットなのは利得距離で、(選手同士が)すごく近くでバトンを渡します。それが、(お互いの距離感が)今までのアンダーハンドより長く、通常のオーバーハンドより少し短い感じになりました。
アンダーハンドのメリットは、もらった人がすごく走りやすいことです。オーバーハンドは腕を上げた状態で固定するので、走りが制約されて加速がしづらい。失敗もしやすいし、距離感もつかみづらい。でも、腕を下に下げている方が走りに近く、腕を上げている時間もそんなにないので、加速がすごいスムーズなんです。渡す方は上であろうと下であろうと、あまり関係ありません。