辰吉寿以輝が見せた“どつきあい”の魅力=父・丈一郎は苦笑い「必死過ぎるんや」

城島充

荒削りも非凡なパワーを披露

2回KOでプロデビューから2戦連続KO勝利を飾った辰吉寿以輝 【写真は共同】

 元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎の次男・寿以輝(大阪帝拳)が、2回2分28秒KOで岡村直樹(エディタウンゼント)を倒し、デビュー2連勝を飾った。多くのメディアに注目されるなか、この日も荒削りなボクシングのなかに、非凡なパワーを披露。カリスマと呼ばれた父を持つ話題性だけではなく、“どつきあい”の魅力を体現できる希有な存在として今後の成長が注目される。

試合を終わらせた強烈な左フック

初回は右ストレートをまともにもらうシーンもあったが、2回に強烈な左フックで試合を終わらせた 【写真は共同】

 リングサイドには、WBO世界スーパーフライ級王者の井上尚弥(大橋)や弟の東洋太平洋スーパーフライ級王者・井上拓真(大橋)、さらに日本最速となる5戦目で世界王座に就いたWBO世界ミニマム級王者・田中恒成(畑中)も顔をそろえた。彼らのようにアマチュアで実績をあげ、洗練された技術を持つボクサーがプロのリングでも活躍するなか、アマ経験のない寿以輝のボクシングは不安定だが、その危うさゆえの魅力がある。それもまた、ファンが久しく忘れていたボクシングという競技の本質的な魅力ではないか。

 この日も高槻市役所に勤務する公務員ボクサ−、岡村の左ジャブからの先制攻撃を真正面から受け止め、初回の中盤には右ストレートをまともに浴びる場面も。左右によく動く相手をつかまえきれない懸念もあったが、2回には左ジャブ一発で岡村をロープへ吹き飛ばすと、右ストレートから左フックをフォロー。たたみかけるときの圧力とパワーを見せたかと思うと、最後はクリンチされたところを強引にふりほどき、わずかな距離ができたところへ強烈な左フックを決めて試合を終わらせた。

父と同じバンタムに「こだわりない」

父・丈一郎は「必死過ぎるんや」と苦笑いも、「よく練習していることはわかった」と戦いぶりをたたえた 【写真は共同】

「初回にパンチをもらったけど、焦ったりはしなかった。(倒した左フックの手応えは)まあ、ありました」
 控え室で報道陣に囲まれた寿以輝は言葉少なに試合を振り返った。

 4月のデビュー戦ではスーパーバンタム級のウエートでリングに上がったが、この日は1階級下げ、父が3度世界王座を獲得したバンタム級リミットの体に仕上げた。本人は「バンタムに落としても、減量がきつくて足が動かないとかはなかった。別にバンタムにこだわるつもりはないし、ベストなウエートでやりたい」と語ったが、10キロ以上の減量でより体を絞ったせいか、背中の筋肉の隆起、とりわけ、左フックをたたき込むときの躍動感が父の全盛期に似ていたのも、『辰吉ファッション』に身を包んで会場にかけつけた熱心なファンのノスタルジックな感情をかきたてた。

 その父は「緊張しとったなあ。ガチガチやった。アマ経験がないから必死過ぎるんや」と苦笑い。技術面の成長についても「まだ2戦しかしてないからわからん」と突き放しながら、それでも「内容の充実した練習があったから(KO勝ちにつながった)。あいつの練習は見たことないけど、よく練習してきたことがわかった。試合では練習してきたことしか出ないから」とたたえた。

ディフェンスが課題も募る期待感

持ち前のパワーにリズムが加わり、課題のディフェンスを磨けば……寿以輝の今後の成長に期待せずにはいられない 【写真は共同】

 今のままでは技術とスピードのある相手とやれば苦戦を強いられるだろうが、持ち前のパワーにリズムが加わり、課題のディフェンスを磨けば……。一戦一戦の積み重ねが今後、荒削りなボクシングをどのように成長させていくのか。マッチメイクも含めた陣営の手腕も問われるが、その成長の過程を注視するのは、エリートボクサーたちのパフォーマンスを追いかけるのとは明らかに違う期待感がある。

 殴られたら、殴り返す――洗練された技術の背後に隠れがちな泥臭くて無骨な、しかしこの競技の根源的な魅力をいつか、辰吉寿以輝というボクサーがこれまでにない形で披露してくれるかもしれない。
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著者プロフィール

関西大学文学部仏文学科卒業。産経新聞社会部で司法キャップなどを歴任、小児医療連載「失われた命」でアップジョン医学記事賞、「武蔵野のローレライ」で文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞を受賞、2001年からフリーに。主な著書に卓球界の巨星・荻村伊智朗の生涯を追った『ピンポンさん』(角川文庫)、『拳の漂流』(講談社、ミズノスポーツライター最優秀賞、咲くやこの花賞受賞)、『にいちゃんのランドセル』(講談社)など

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