因縁の相手に快勝したラグビー日本代表 W杯に向けた「ベイビーステップ」

斉藤健仁

チャレンジングな攻撃は見られず

練習で見せていたチャレンジングな攻撃は、試合では見られなかった 【斉藤健仁】

 もちろん、課題もあった。「アタッキングラグビー」を掲げるジョーンズHCは「思っていたほど、ボールを動かせなかった。南アフリカ代表に勝つためにはもっとボールを動かして、もっとスピードを上げて、もっと正確なプレーが求められる」とキッパリ。セットプレーが優位だったが、1トライでは寂しかったというのが本音だろう。特に、後半の最初の時間帯に、相手陣の奥深くまでボールを運んでいたが、自らのミスでトライには結びつけることができなかった。

 実は前日練習では、日本代表の代名詞でもある「アタック・シェイプ」のSHとFW、SOとFWのループプレーを繰り返していた。だが、チャレンジングかつ相手を惑わせるような攻めは見られず、やはり、相手ゴール前では単純な攻めではトライを取り切れない。また前半終了間際、相手反則後にキックパス、後半にも相手の反則後にクイックから外に展開したが、ゴールラインは遠かった。

 今回のメンバーで戦っている時間が少なく連携不足だったこともあるだろう。SO立川の交代の影響があったかもしれない。だが、仕留め切れず、点差を広げることができなかったため後半は相手にモメンタムを渡してしまったのも事実。PNCは残り3試合。3戦目以降はFLリーチ マイケル(東芝)、SH田中史朗(パナソニック)らのスーパーラグビー組が復帰する予定だが、W杯を考えれば、もっと精度の高いアタックでトライを取り切るシーンを増やせるか。

エディーHC「ベイビーステップを踏めた」

ボールを持って前進するWTB福岡。「試合途中で左肩を痛めたこともあり、固くなってしまったかも」 【斉藤健仁】

 また6月の合宿で好調を維持し、期待されていた藤田と福岡堅樹(筑波大4年)の両翼は、特筆すべき活躍はできなかった。唯一のトライを挙げた藤田は「アタックはまあまあでしたが、改善点ばかり。ディフェンスの部分が良くなかった」。福岡も「トイメン(マークする相手)が強くて、試合途中で左肩を痛めたこともあり、固くなってしまったかも。良いプレーを見せる機会を作れず満足していない」と2人は反省しきりだった。

 それでも、FB五郎丸が「フィジカルでやられなかった。久しぶりの割には非常に良い形でできた。ポジティブな試合だった」と振り返ったように、2カ月ぶり、しかも今年初めて強豪と対戦したことを考えると及第点を与えることはできよう。
 ただ、W杯での戦いを想定するジョーンズHCから見れば「赤ちゃんがハイハイするような小さな『ベイビーステップ』を踏むことができましたが、なぜ私がそう言っているかは、昨日の南アフリカ代表の試合(vs.オーストラリア戦)を見ればわかる」と、一喜一憂することはなく冷静な態度を崩さなかった。

 次の24日の試合は、W杯の予選プール同組のアメリカ代表が相手、しかも完全なアウェイでの戦いだ。「賢く、相手に手の内を明かさないでモハメッド・アリみたいに戦います。プレーする方法もメンバーも変えますが、もちろん意図を持ってやります」(ジョーンズHC)は言うものの、やはり、ディフェンスではなくアタックで勝ち切る「エディージャパン」本来の姿が見てみたい。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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