日本を競歩王国に変貌させた組織改革 陸連・今村部長が語る「共有化」の理由

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競歩で今、日本勢の躍進が続いているのはなぜか。現場を束ねる今村文男氏に理由を聞いた 【写真は共同】

 いかに速く歩けるかを争うシンプルな競技ゆえに“地味な種目”とも見られてきた競歩で今、日本男子の大躍進が続いている。20キロで競う3月の全日本競歩能美大会で、鈴木雄介(富士通)が1時間16分36秒の世界新記録を樹立。今季の世界ランキング上位10人を見ても、20キロでは鈴木を含めて5人、50キロには3人の日本人が入っている。ロンドン五輪が行われた3年前には、日本人が1人もトップ10入りしていなかったことを考えると、その勢いは目を見張るものがある。

 この急伸の立役者が、ロンドン五輪後から日本陸上競技連盟(陸連)の競歩部長を務める今村文男氏だ。自身も、1991年東京世界選手権の50キロ競歩で日本勢初の入賞(7位)を果たし、2度の五輪出場経験を持つパイオニア。現在、実業団チームの富士通で、鈴木や期待の新鋭・高橋英輝、11年テグ世界選手権6位入賞の森岡紘一朗らの指導も担っている。

 8月の世界選手権(中国・北京)、来年のリオデジャネイロ五輪を控える今、日本男子競歩はなぜこれほどまでに強くなったのか。現場を束ねる今村氏に理由を聞いた。

目標や取り組みの共有化で生まれた好循環

ロンドン五輪後に競歩部長に就任した今村氏は、“チーム競歩”としての取り組みが結果につながっていると分析する 【スポーツナビ】

――ロンドン五輪以降、日本男子競歩は活気づいています。この現状をどう分析されますか?

 12年の暮れから陸連で新しい強化体制が組まれ、私が現場の責任者になりました。それまでの取り組みを見直して見ると、それぞれの所属先で強化はしているものの、一体感がなく、直前まで(選手の)状況がほとんど分からない状態でした。そこで、まず記録面で目標を設定しつつ、一体感が持てるように、種目ごとの課題を明確にし、その課題を改善するための年間強化計画を立案して、期分けに基づいて強化を行ってきました。いわゆる“チーム競歩”みたいな形で取り組み始めてきた成果が、徐々にこの3年間で出てきたのかなというのが正直なところですね。

――具体的にどういった取り組みをしたのですか?

 男子は世界選手権や五輪で上位に入れる選手と一緒にトレーニングをしていく中で、具体的な記録の目標や取り組みの共有化ができるようになりました。例えば、50キロなら通年で、特に長い距離をやる時は一緒にやりましょうと。20キロについては、不定期ではあるんですけれど、大きな試合の1、2週間前くらいに、レースの変化に対応する歩きができているかどうかを、現場の強化委員がビデオ撮影したり、ディスカッションしながら確認しています。そこで現状の歩きを見直し、ブラッシュアップして、次のレースに向けてやっていく。それぞれ種目特性に応じて合宿を行ったり、通年で取り組んだりすることで、良い意味でうまく循環できているのかなと思います。

――これまでも合宿はされていたと思いますが、何が違うのでしょうか?

 これまでの代表合宿では、「君子危うきに近寄らず」ではないですが、(各選手の)専任コーチがいて、同じ場で練習してはいるものの、チームごとに自分たちは自分たちでと(バラバラに)やっていました。例えば陸連合宿は同じ県内でやるけど、チームごとに別のホテルで寝泊まりするとか。もちろん世界選手権や五輪では個人のスケジュールを優先しています。ただ、1月に行う宮崎合宿では、みんながほぼ決まったスケジュールを同じような流れでやっていく。そしてレースに近い時期に合宿を組んだ場合は、選手と対話しながら、練習スケジュールを微調整していく。そんな一体感のある流れがいいと思うんです。

他チームの選手にアドバイスするのは日本だけ

男子20キロ競歩で鈴木雄介が世界記録を樹立するなど、スピードでも世界と肩を並べるようになった 【写真は共同】

――所属ごとにバラバラにやっていた強化を一体化したことで、選手に何か変化はありましたか?

 トレーニングの流れが一緒なので、例えば20キロの選手が50キロの選手がやっている流れを分かっていれば、「今は持久力が足りない。少しやっておきたいな」という時に50キロの選手とやったりといった、新しい発想ですね。「20キロだから俺は20キロの練習だけ」ではなく、目標に向けた取り組みの中で、いろいろコラボレーションしながらやっている状況です。

――ロシアをはじめとした強豪国でも似たような感じでしょうか?

 ロシアは具体的にはわからないのですが、私が聞いた範囲では、指導者が必ずペース、距離、どんな内容にするかを決めているようです。今言ったように選手に選択肢があるというのはそんなに多くはないと思います。また、イタリアやスペインでも、ナショナルチームの合宿はあるものの、基本的には専任コーチと選手の問題なので、強化スタッフは技術的なことは一切口にせず、給水を出したりタイムを計ったりといったサポートに徹します。

 そういった国々と日本が一番大きく違うのは、技術的な部分はもちろん、細かな部分も専任コーチといろいろ情報を共有し、「こんな時はこういうふうにした方が選手が混乱しないよね」というキーワードをいただきながら、私が見ていない選手についてもアドバイスを送ったりしていることですね。

――“チーム競歩”での取り組みによって、日本がもともと得意としていた50キロだけでなく、スピードが求められる20キロでも戦えるようになりました。

 私が現役だった当時、自分も含めて競歩トレーニングの方法がまったく分からなかったので、行き当たりばったりでした。国際大会でも気温、湿度、アップダウンといったコース環境など、いわゆる環境に助けられて上位にいけた経緯もありました。ただ現状は(コースは)極力平坦で、折り返しコースでも片道が直線1キロです。「じゃあどうやって記録を高めていくか」となると、明確に世界のトップになるコツというのがあるんです。今の(男子競歩陣の)飛躍はおそらく方法論だと思います。デタラメにやっていたら強くはなりません。

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