日本を競歩王国に変貌させた組織改革 陸連・今村部長が語る「共有化」の理由

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日本競歩全体に浸透したトレーニング理論

11年テグ世界選手権では、今村氏の教え子である森岡紘一朗が6位入賞を果たしている 【写真は共同】

――方法論とは具体的にどういったものですか?

 トレーニング理論ですね。われわれの練習は「時間」「強度」「頻度」の3要素が非常に大事になっています。「時間」とは距離のことで、その日に何キロやったか、1回で何キロやったか。「強度」は(例えば)持久歩の時は何分何秒、インターバルの時は何分何秒でやるといったペース設定。「頻度」は30キロ(歩く練習)を午前と午後にやるのか、1回だけでいいのかなどです。練習スケジュールを組む時にはこの3つを考えながら週単位でやっていきます。これが私たち(が現役)の時は勘でしたけれど、今はもう「こういうふうにやっていくと、うまくいくんじゃないか」というのが分かってきていて、今のトップ選手はほとんどそういうふうに練習を組んでいるはずです。

――その方法論を日本の競歩全体で取り入れたのは、今村コーチが競歩部長に就任された12年ごろですか?

 そうです。私が05年にイタリアのサンドロ・ダミラノ氏のもとで行った海外研修でやってきた方法です。それまではジュニアの強化委員として、森岡選手や山崎勇喜選手(自衛隊体育学校、北京五輪男子50キロ競歩で7位入賞)に関わりながらやってきました。その自分なりの取り組みを今、(競歩)全体で行っているというか。ですから、所属先の垣根を取り払い、それぞれのチームスタッフと情報共有しながら選手強化を統括している感じでしょうか。

――それが日本の競歩全体の底上げにつながったということですね。

 ただ、世界ランキング100傑の中の比率で言うと、ロシア、中国と日本の3国が圧倒的ですが、どちらかと言うと、そういった人数が多い国にやられているのではなく、世界ランキングの上位に1、2人しかいないような国の選手に勝てていないという状況です。日本はチームとしては確かにハイパフォーマンスです。(メダル獲得のために)あと足りないのは、私はやはりピーキングだと思いますね。いかにして右肩上がりで2、3、4月の代表選考会を経て、本番の世界選手権や五輪に向けて、成果を出すような準備をしていくことが大事だと思っています。

金メダル獲得へ、キーワードは「腹八分」

北京世界選手権では複数入賞も期待される。日本代表に選出された(左から)高橋英輝、鈴木雄介、谷井孝行、荒井広宙 【写真は共同】

――ピーキングという意味では、鈴木選手はロンドン五輪、モスクワ世界選手権、アジア大会と期待されていたものの、調整がうまくいかず、思うような結果を出すことができませんでした。今回の世界選手権に関してはいかがですか?

 そうですね、そのうまくいかない部分をブラッシュアップしながら、だんだん、そのような経験から「(敗因は)ここだよね」というところが分かってきているので、そこはうまくクリアできれば自分の思い描いた結果になるんじゃないかと思いますね。

――こことは具体的に?

 本人も言っている“腹八分”。100パーセントではなく、8〜9割でいきながら、あまり神経質にならないということですね。特に今回の世界選手権はアジアエリアなので、時差もそんなに大きくなく、(日本人と同じアジア系である)現地の顔も含めて、「自分の故郷を思い浮かべながら歩けよ」と。

――鈴木選手も国際大会で経験を積み、世界記録保持者になるなど結果を残す中で、何か変化は出てきましたか?

 自分のトップ10の記録をここ3年間くらいで塗り替えていますので、安定性はあります。ですから、いかに狙ったところに合わせるかが1つポイントになってきます。記録ではなく、人と競う中で順位を決めるわけですから、そういったことをしっかり見極めながら準備をしていけばいいんじゃないかと思います。

――最後に、世界選手権での男子競歩としての目標を教えてください。

 選手たちが掲げている目標を整理すると、20キロに関しては全員が入賞を目標にしつつ、(20キロ、50キロとも)ダブル入賞してほしいですね。そのうち鈴木が金メダルとなれば、それを達成できるよう、サポートをしていく必要があるかと思います。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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