迷いが消え、調子を上げた香川真司の1年 ドイツ杯決勝で敗れるも現地では高評価

中野吉之伴

動きの質が向上、効果的に攻撃に絡む

シーズン終盤になって調子を上げた香川。プレーが整理され、動きにつながりが出てきた 【写真:ロイター/アフロ】

 負けはしたが、この試合での香川のプレーは地元紙から高く評価された。西ドイツ新聞オンライン版の『デアベステン』は、香川に2という高い数字をつけ(編注:ドイツでは点数が少ないほど評価が高い)、「普段同様ボールに対して休むことなく働き、今回はボールを持った時のプレーも良かった。オーバメヤンのゴールをアシストし、18分にはマルコ・ロイスに正確なパスで1000%のチャンスを演出。43分にもオーバメヤンの惜しいシュートを導いた。50分、ロイスのパスを完全に捉えきれず、自身も決定機を外してしまった」とプレー内容を評価。試合を通してボールに絡む頻度が多く、チャンスメークに奔走していた。一時期の不調時と比べて、動きの質は間違いなく上がってきている。

 今季うまくいっていない時の香川は、多くの場面でためらいが見られ、決断が遅くなってしまうという問題を抱えていた。何かをやらなければという思いを抱え込むばかりに、「自分が決定的なシーンを作り出す」ことばかりに意識がいき過ぎていたのかもしれない。しかしどんな状況からでもチャンスを生み出せるわけではない。相手チームの対応が良ければ、一発のプレーでは崩し切れない。迷いはシンプルに展開する瞬間を逃すことにつながり、結果攻撃への切り替えの場面で時間を使い過ぎてしまう場面が増えてしまう。ミスが増えると今度はシンプルにプレーすることばかりに気が行き、逆に勝負できるタイミングを逸してしまう悪循環にさいなまれる。

 リーグ第28節ボルシア・メンヘングラードバッハ戦(1−3)後の『デアベステン』による個人戦評では「いろいろなところに顔を出したが、多くの場面で判断が遅過ぎ、決定的な場面ではリスクにチャレンジする勇気を欠いていた。スルーパスを狙える場面でも横パスを選択することが多く、危険なシーンになりそうな場面にブレーキを掛けてしまった。ゴール前で完全にフリーになりながら決められなかった50分のシーンが、その兆候をよく表していた」と厳しく指摘されていた。

 それでもそこから調子を上げてきたのは喜ばしいプロセスと言えるだろう。第29節パーダーボルン戦(3−0)でゴールを挙げられたことも大きい。ゴールは間違いなく自信につながる。一つ一つのプレーが整理され、動きにつながりが出てきたことで、少しずつまた攻撃に効果的に絡めるようになってきた。そしてリーグ最終節のブレーメン戦(3−2)では1ゴール2アシストの活躍でチームの勝利に貢献。81分にミロシュ・ヨイッチと交代するときには、ファンから大きな拍手が贈られていた。

期待される主軸としての活躍

香川にはこれまで以上にチームの主軸としての活躍が期待されている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 では来季に向けて香川に求められるものはなんだろうか。新監督トーマス・トゥヘルを迎えるチームでは激しいポジション争いがスタートする。攻撃的なポジションには香川の他にもロイス、ヘンリク・ムヒタリアンとライバルがひしめき合っている。『ビルト』紙では「トゥヘルがムヒタリアンの才能を高く買っており、一番力を発揮できるトップ下での起用を検討している」と報じられていた。簡単にレギュラーの座を手にできるわけではない。トゥヘルは自分たちでボールを動かしながら攻撃するサッカーを志向しており、どちらかと言うとジョゼップ・グアルディオラに近いサッカー観を持っている。この日の後半に見せたように、守備を固める相手には時に中盤の底まで引いてボールを引き出したり、サイドに起点を作って相手をいなしながらスペースを作り出すといったゲームマネジメント能力がより求められるのではないだろうか。

 また守備でのクオリティーもさらに上げる必要がある。相手のパスコースを切るだけのポジショニングではなく、そこから相手に寄せてボールを奪う、あるいは相手がボールをコントロールしきれないようなプレスをかけられるようになるとチームにとってさらに重要な存在になるはずだ。

 年齢的にもチーム内での立場的にも、香川にはこれまで以上にチームの主軸としての活躍が期待されている。自分のプレーだけではなく、試合の流れを読み、チームにリズムをもたらす存在へ。香川の新しいチャレンジが始まる。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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