W杯から逆算して準備を続けるなでしこ 不安よりも期待が大きくなった2連勝

小澤一郎

コンディションは現時点で問題なし

W杯に向けた国内でのテストマッチ2試合を、共に1−0の勝利で終えたなでしこジャパン 【写真:アフロスポーツ】

 カナダで6月6日に開幕するFIFA女子ワールドカップ(W杯)に向けて準備を進めるなでしこジャパンは、国内でのテストマッチ2試合を共に1−0の勝利に終えた。W杯連覇を狙うなでしこジャパンはグループステージ(グループC)でスイス、カメルーン、エクアドルとの対戦を控えているが、24日のニュージーランド戦は“仮想スイス“、28日のイタリア戦はカメルーン、エクアドルとの試合をイメージして行われた。佐々木則夫監督がイタリア戦後に「攻守に渡って、やろうとしていることは表現できていた。非常に良い、参考になる、次につながるゲームを選手たちはやってくれた」と話した通り、個人的にもこの2試合は本大会に向けて収穫と課題という名の“伸びしろ”が明確になったナイスゲームだったと評価している。

 3月にポルトガルで行われた女子W杯“前哨戦”のアルガルベカップでは、デンマーク(1−2)、フランス(1−3)に敗れるなど、なでしこジャパンとしては過去最低の9位に終わった。W杯連覇に向けて黄信号がともっていたチームだが、逆転負けで内容的にも「完敗」だったフランス戦直後に佐々木監督は、シーズンが始まり国内組のコンディションが上ってくれば「フランスに食らいつけるだけの力を日本の選手たちは持っている。逆にもっとしてやられるかと思っていた」と発言していた。

 ある意味、このラストマッチ2試合は佐々木監督の発言に多少の強がりが込められていたのかどうかを確認できる機会であったわけだ。ニュージーランド戦後の佐々木監督はコンディションについて次のように話した。

「(国内組は)アルガルベよりも全然上がってきている。欧州のシーズンは終っているが、(海外組は)そのままの流れの中で来ているので、双方に良いサッカーのパフォーマンス、コンディションで集まってきてくれている」

 コンディションというと真っ先にイメージされるのがフィジカルコンディションだが、注目していたのはフィジカル面のコンディションが上がってきた中でどれほどゲーム勘、頭の中の判断スピードが上がっているのかという部分だった。特に、アルガルベカップでは頭の回転数という意味での「インテンシティー」に欧州組と国内組に大きな差があり、それがピッチ上でちぐはぐな連携やテンポの上がらないサッカー、中盤での信じられないミスを誘発していたのだが、この2試合のパフォーマンスや起こったミスのレベルを見る限りコンディションの問題は現時点で「ない」と言い切れるレベルだろう。その前提があった上で、ここからは具体的な収穫と課題について言及していきたい。

ミドルゾーンにおける安定感が向上

澤の復帰によってミドルゾーンにおける守備の安定感と強度が出てきた 【写真:アフロスポーツ】

 2試合で出た収穫については2点挙げたい。まずは何といっても本大会メンバーに滑り込んだ澤穂希の復帰によってミドルゾーンにおける守備の安定感と強度が出てきたのが1つ目の収穫だ。この1年あまり代表から遠ざかっていた澤については年齢的な衰えや周囲との連携面が不安視されていたが、ニュージーランド戦ではコーナーキックから決勝点となるゴールを決める仕事ぶりと90分フル出場するフィットネスで存在感を発揮。イタリア戦でも序盤から中盤のスペースや相手のビルドアップの特徴を見極めた上で、ポジショニングを細かく修正しながら効果的なプレスをかけ、球際では持ち味の「ボールを奪い切る守備スキル」を披露した。彼女のプレーの特徴であり原則は「良い守備、良いポジショニングからの良い攻撃」なのだが、澤をボランチに戻したことによってなでしこジャパンのサッカー自体も守備や適切な距離感をベースとしたものに原点回帰していると感じる。

 2011年のドイツ女子W杯で世界チャンピオンに輝いたことでポゼッションをベースとした「パスサッカー」がなでしこサッカーの代名詞となり、周囲はなでしこのサッカーを「攻撃的」と定義付けた。しかし、実際にはボールを持つ時間が長いからこそボールを失った切り替え局面や守備において強度の高いプレーが行いやすいという部分がなでしこらしいサッカーのキーファクターで、澤の復帰によりそれをすんなりと取り戻した印象だ。加えて、佐々木監督は今回のキャンプで守備をメインテーマに設定したトレーニングを行ったという。勝ち切る(逃げ切る)ために5バックや4−1−4−1などシステムのバリエーションを増やした。さらに、「勝ち気で前線からガンガン行きたがる選手が多い」(佐々木監督)なでしこジャパンに、ミドルゾーンでしっかりとブロックを敷く忍耐強い守り方と、守備からリズムやイニシアチブをつかむサッカーを植え付けている。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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