W杯から逆算して準備を続けるなでしこ 不安よりも期待が大きくなった2連勝

小澤一郎

手応えを感じる左サイド

宇津木(写真)や宮間らがレンジの長いパスを繰り出し、攻撃に手応えを見せる左サイド 【写真:アフロスポーツ】

 2つ目の収穫は、左サイドからの攻撃の質が飛躍的に上がった点だ。これも澤がボランチに入ったことの効用で、宮間あやが左サイドハーフにポジションを上げた。イタリア戦ではボランチが本職の宇津木瑠美が左サイドバックに入り、鮫島彩をサイドアタッカーとして使うといった大胆な選手起用も実現可能となった。

 特に宮間、宇津木はレンジの長いパスを出せるため、遠めから前線で素早く質の高い動き出しを行う大儀見優季にピンポイントのパス、スルーパスを入れることができる。イタリア戦で大儀見が決めたゴールは、左サイドで動きながらトライアングルを形成した宮間→大儀見→宇津木とパスが回り、一度は宇津木からのクロスが跳ね返されるも、澤が拾ったボールを再度宇津木が入れてそれに大儀見が反応した形だった。

「体が自然に反応した」と得点シーンを振り返った大儀見は、「高い位置までああやってボールを運べるようになったら、クロス、中への崩しと選択肢の幅が持てる。左サイドに(宮間)あやと(宇津木)瑠美が入ると、低い位置からでも高い位置からでもボールを引き出せると感じたし、1回の動き直しだけで済むというのは大きい」と左サイドへの手応えを語った。

課題は右サイドからの攻撃と連携

単調なクロスや連携ミスの目立った右サイド。川澄(写真)や近賀らのビルドアップ向上に期待したい 【写真:アフロスポーツ】

 最後にこの2試合から見えた課題に触れたい。2試合共に後半押し込みながら1点止まりだったという決定力、フィニッシュの精度について佐々木監督は「大いに反省すべき点で、もっとミドルシュートの意識を持たせたい」と語っていた。しかし、本大会までにまだ左サイドの崩しの精度と大儀見のシュート精度が上がっていくのは間違いないので、ミドルシュートはそこまで意識する必要はないと感じる。

 それよりも右サイドからの攻撃と連携を上げていくのが課題。イタリア戦後、佐々木監督は「時間の問題なので、時間をかけて準備していきたい」と単調なクロスや連携ミスの目立った右サイドについて言及していた。

 現状では、試合序盤のフレッシュな時間帯で相手が前線からプレスをかけてきて、ダブルボランチに圧力がかかった時の右サイドでのビルドアップにミスが多い。川澄奈穂美と近賀ゆかりだけの問題ではないが、川澄が高く、中央寄りのポジショニングを取って近賀を前に上げることができれば、ポジショニングだけでビルドアップが成功する局面も各試合で1回は出ていた。そうした現象を意図的に繰り返し行うような連携を期待したい。

 アルガルベカップ終了段階では女子W杯本大会に向けて大きな不安を感じていたが、この2試合で不安よりも期待の方が大きくなったというのが率直な感想だ。しかし佐々木監督がよく話す通り、この4年で世界も大きく進化しており、W杯での連覇はおろか、ベスト4入りもかなり難易度の高いミッションだ。その現実やライバル国の実力を肌感覚で熟知するなでしこジャパンだからこそ、エースの大儀見が「どんな結果も受け入れる準備はできている」と語るように、本番での戦いから逆算をした的確な準備と積み上げが現在進行形でなされている。われわれも、今は期待感を持って女子W杯開幕を待とうではないか。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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