ドイツ以外の3カ国で苦戦する日本人選手 本来の実力を発揮できない要因は何か?
どの国でも活躍できる長友と内田
今季は負傷がちで苦しんでいる長友だが、驚異的な上下動やオープンマインドは、どの国でプレーしても間違いなく通用する 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】
2012−13シーズンのサウサンプトンでセンターバックのレギュラーを勝ち取った吉田麻也の活躍は、日本人選手の欧州挑戦史の中でも特筆すべきトピックスだと思うが、彼は英語の使用率が高いオランダでの2シーズンを経てイングランドへ移籍したという経緯がある。一方SBあれば、ある程度は周囲を見渡しながらポジショニングを考えることもできるし、ヨーロッパでプレーするSBの戦術理解度は総じてそれほど高くないような印象もあるため、日本人特有の細かな気配りで十分勝負できる。さらに、体格面での不利が大きく出ないポジションだということも、日本人SBにとっては有利なポイントだろう。むしろドイツ以外の国のクラブが、なかなか日本人SBを欲しないことの方が不思議に思える。
ただ、長友に関しては完全な例外だ。彼はここまでドイツ以外の国で唯一成功しているSBであるが、あの驚異的な上下動とオープンマインドはおそらくどの国でプレーしても間違いなく通用する。スペインで見てもジョルディ・アルバ(バルセロナ)とマルセロ(レアル・マドリー)ではさすがにやや分が悪いとはいえ、シケイラ(アトレティコ・マドリー)やガヤ(バレンシア)、フェルナンド・ナバーロ(セビージャ)といったUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場圏内を狙うクラブの左SBと比較しても、何ら見劣りするところはない。それは内田篤人でも同じことが言えると思う。この2人はそれぞれイタリア、ドイツでのプレーが長くなっているものの、おそらくは今回のテーマに挙げた4カ国ならどの国でも問題なくアジャストし、活躍できる選手だと確信している。
重要なパイオニアの存在
城(手前)はスペイン移籍のパイオニアになり得ただけに、負傷によって契約延長が見送られたのは痛恨だった 【写真:ロイター/アフロ】
02年にチャールトンからオファーを受けたものの、かの国特有であるワークパーミット(労働許可証)の問題が立ちはだかり、移籍は成立しなかった。当時は彼の全盛期であり、ウイングプレーヤーの需要が高いイングランドでも十分通用したと思う。本人がブラジル出身ということもあり、純粋な日本人選手の価値向上ではないかもしれないが、Jリーガーとしての価値と考えれば、彼の活躍次第で後進が続いた可能性は否定できないだろう。
また、スペインでは城彰二が挙げられる。00−01シーズン途中の1月にバジャドリーへ加入したにも関わらず、リーグ戦15試合に出場するなど定位置をしっかりと確保。また、以前『バルサTV』の収録でJ SPORTSへ来社頂いた際に本人がお話されていたが、バルセロナとの試合中にルイス・フィーゴから「俺の日本食レストランに寿司を食べに来い」と誘われ、実際にバルセロナを訪れてフィーゴの店で会食したという。こういう社交性や積極的なメンタリティーの有無は、ある意味で日本人にとってスペイン挑戦の壁ともなり得る一因であり、そういう面を難なくクリアしていた彼の契約延長が過去の負傷によって見送られたことは、スペインにおける日本人選手の評価を考えても痛恨だったと今でも感じている。
なお、それ以前にも1996年に財前宣之が当時スペイン1部に在籍していたログロニェスと契約し、主力として期待を寄せられていたものの、やはりシーズン前の負傷で契約を解除されたということもあった。彼もパイオニアになる可能性のあった実力者の1人として、是非名前を覚えておいて頂ければと思う。
投資の対象として認知されている
名門ミランに所属する本田らに代表されるように、日本人選手は投資の対象として欧州で確実に認識されている 【写真:ロイター/アフロ】
また、少し前のことではあるが、レアル・マドリーが長友に興味を示しているというような報道もあり、ヨーロッパのいわゆる4大リーグのマーケット上でも、日本人は投資の対象として確実に認知されている。例えば中村がセルティックで、香川がドルトムントでそうだったように、イタリアで、イングランドで、そしてスペインで、現地のフットボールファンを熱狂の渦に巻き込み、そのクラブを去った後でも永く愛されるような日本人選手が出現することを願ってやまない。