ドイツ以外の3カ国で苦戦する日本人選手 本来の実力を発揮できない要因は何か?

土屋雅史

突出して多いドイツへの移籍

チェルシー移籍がうわさされる武藤。しかし、プレミアリーグで日本人選手はなかなか活躍できていない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 つい最近まで連日のように、1人の若者の“今後”が各メディアで報道されていた。武藤嘉紀、22歳。今年の春に慶應義塾大学を卒業したばかりの彼を取り巻く環境は、この1年で驚くほどに激変した。FC東京U−18時代からスポット的に“よっち”(武藤の愛称)のプレーを見てきた者としても、ベースとなるプレーの特徴は当時からほとんど変わっていないものの、その溢れ出る自信のようなオーラが導く、加速度的な成長への道筋にはただただ驚いている。それでも、大々的に報道されたイングランドの“超”強豪であるチェルシーへの移籍というのは単純に「すごいな」と思う反面、本人が自身の進路へ慎重にならざるを得ない面も十分理解できる。そんな中、今回は編集部から「ブンデスとセリエでは成功した日本人選手がいるのに、なぜリーガやプレミアではなかなか成功できないのか」というテーマのオーダーを頂いた。しかし、前提をいきなり覆すようだが、まずはこのデータを見て頂きたいと思う。

 ドイツ:30人
 イタリア:10人
 イングランド:11人
 スペイン:12人

 これはJリーグ発足後の93年以降、各国の1部リーグあるいは2部リーグ所属のクラブに在籍した経験を有する日本人選手数である。ドイツが突出しているのは想像通りだと思うが、実は今回対象とした4カ国の中ではイタリアが最も少ない。それでも日本人選手のイメージが悪くないのは、10人全員が1部リーグ経験者であることと、中田英寿と長友佑都という突出した2人の活躍に拠るところが大きいのは間違いない。ということで、今回はやや編集部の意向と逸れることを許してもらいつつ、語り尽くされている感のあるドイツ以外の3カ国でなかなか日本人選手が活躍できない理由を探っていきたい。

最大の理由はポジション

活躍できない最大の理由はポジションにある。FWでありながら、サイドハーフで起用された柳沢(左)は本来の実力を発揮できなかった 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 いきなり本題に入るが、最大の理由はその3カ国に挑戦する選手のポジションだと感じる。例えばスペインに挑んだ12人の日本人選手の中に、守備的な役割を特徴とする選手は1人としていない。ポジション別に見ても8人がFWで4人がMF。後者も中村俊輔、家長昭博、田邉草民、杉田祐希也で、いずれも攻撃的なMFである。それはイタリアも同様だ。同国の1部リーグでプレーした、あるいはプレーしている10人の中で、DFは長友ただ1人。中田、中村、森本貴幸はチームの主力としてシーズンを戦い切った経験を有するが、その戦術理解度の高さからサイドハーフを任されることもあった柳沢敦の起用法が象徴するように、本来の実力を示せなかった選手が大半である。

 イングランドは少し様相が異なり、まず川口能活と林彰洋という2人のGKが2部リーグ所属クラブへ加入したものの、満足に出場機会を得ることができなかった。また、ワールドカップ(W杯)日韓大会での活躍を認められた戸田和幸は、守備に軸足を置くMFとして今回のテーマに置いた4カ国へ初めて挑戦した選手だが、実力を高く評価されていたサンダーランドとの契約が直前で破談となった不運がキャリアに影響したことは付け加えておきたい。

 基本的には攻撃的なポジションの選手ばかりが評価を受けて海を渡るものの、各国の高い壁に阻まれているのが現状だと言える。これには大きく分けて2つのジレンマがあるように思う。

 1つは攻撃陣全体のクオリティーが高くない中位以下のクラブで、出場機会は得るものの結果が出ないパターンだ。今までの日本人選手の大半はこの問題に苦しめられてきた。生かし生かされるタイプの多い日本人選手には、周囲とのコンビネーションは生命線だが、その精度はシーズンを追っていっても上がっていかず、そもそもそれ自体が存在しない場合もある。それでも外国籍選手だという期待とプレッシャーの中で、得点という目に見える数字が出ないと、出場機会も限られてしまう。おそらくはこの繰り返しに多くの挑戦者が直面してきたはずだ。1人でゲームを決め切るタイプの少ない日本人選手にとって、この問題はもしかすると永遠に続く課題かもしれない。

 もう1つは単純にビッグクラブで出場機会自体が限られるパターンだ。最近ではバイエルン・ミュンヘン時代の宇佐美貴史とマンチェスター・ユナイテッド時代の香川真司が思い浮かぶ。これは日本人選手の価値が上がってきたこととイコールであり、喜ばしいことではあるが、やはり彼らのような国内有数のタレントでもビッグクラブでレギュラーを張るまでには至っていないのが現実だ。

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著者プロフィール

1979年8月18日生まれ、群馬県出身。高崎高3年時にインターハイでベスト8に入り、大会優秀選手に選出される。2003年に株式会社ジェイ・スポーツへ入社。サッカー情報番組『Foot!』やJリーグ中継のディレクター、プロデューサーを務めた。21年にジェイ・スポーツを退社し、フリーに。現在もJリーグや高校サッカーを中心に、精力的に取材活動を続けている。近著に『高校サッカー 新時代を戦う監督たち』(東洋館出版社)がある。

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