オリ伊藤光、涙の理由「またこれか」 あと一歩の野球人生…来年こそは必ず

米虫紀子

オリックスの正捕手として優勝争いを戦った伊藤光。最後は悔しさが残ったが、飛躍を遂げたシーズンに得るものも多かったはずだ 【米虫紀子】

 福岡ソフトバンクと熾烈なパ・リーグ優勝争いを繰り広げたオリックス。その正捕手、伊藤光は、エース金子千尋をはじめとする強力な投手陣を巧みにリードして12球団トップのチーム防御率(2.89)を残し、ゴールデングラブ、ベストナイン、最優秀バッテリー賞と捕手が獲得できる賞を総なめにした。

 昨シーズン正捕手の座をつかんだ25歳は、今季初めて優勝争いを経験した。「自分がサインを出してからピッチャーが投げ始めるので、自分の指に懸かっている」。そんなプレッシャーをひしひしと感じながら戦い続けた。

 そして臨んだ10月2日、優勝を懸けたソフトバンクとの最終決戦。1対1のまま迎えた延長10回裏、松田宣浩のサヨナラヒットで、オリックスの優勝の望みはついえた。その瞬間、ホームベース上で泣き崩れた伊藤の姿は、ファンのみならず、多くの人の目に焼きついているはずだ。

 18年ぶりのリーグ優勝に肉薄した、悔しくも充実したシーズンを、伊藤が振り返る。

小中高、プロに入っても「あと一歩」

ソフトバンクとの最終決戦に敗れ、オリックスは18年ぶりのリーグ優勝ならず。伊藤をはじめ、涙を流した選手も 【写真は共同】

――プロで初めて優勝争いを経験されたシーズン。特に終盤戦は頭も体もフル稼働での戦いだったと思いますが。

 正直、負けて(ソフトバンクに)優勝を決められたあとの残りの2試合は、なんだかホッとしたような気持ちで試合に臨んでいたのが、すごく不思議な感覚でした。ホッとしたというか、「もう終わったんだな」という気持ちで野球をしたのは、あの2試合が初めてだったので。

 そういう意味では、優勝争いの最中は常に次の試合のことを考えていて、体力的にもですけど、気持ち的に、休まる時間が本当になかったです。しんどかったなと今は思いますけど、それを毎年できるようなチームにならなきゃいけないし、そういうキャッチャーでありたいので、この1年はムダにしたくないとすごく思います。

――10月2日、ソフトバンクとの最終決戦。サヨナラで優勝の望みが断たれた瞬間、ホームベース上で泣き崩れる姿が印象的でした。

「プロに入ってもまたこれか」って……。「僕の野球人生、こんなんばっかりやなー」という気持ちでした。僕は小学校も中学校も高校も、常に「あと一歩」というところで負けてきた。(明徳義塾)高校2年も3年も、夏の県大会決勝で負けて、一度も甲子園に出ていません。僕が「あと一歩」という人間だから、また自分がキャッチャーをやっているから負けたのかなとか、僕の人生はこんなもんなんだなと思ったら、あの場から動けませんでした。

――あの瞬間にそんなことを……。

 一番目標にしているところにたどり着けないのが今までの自分の野球人生でした。個人としては選抜チームやジャパンに選ばれたりして、それはうれしかったんですけど、チームとして喜べたことが、僕の人生の中にはまだ一度もないんです。いい思いをしてプロに来たわけじゃない。だから「プロでこそ」と思っていました。

 でも、また目標を達成できなかった。これだけやっても……。「一生後悔するんだろうな、でももうやり直せない」。そんなことを思ってしまいました。いい経験だったと思えばいいんですけど、やっぱり1年1年、勝負を懸けてやっているので。振り返って言われると、すごく恥ずかしいんですけどね、負けて泣くなんて。

――しかし、あの姿に感動したという声をよく耳にします。

 聞きますね。それこそ今はどこに行ってもその話ばっかりです(苦笑)。友達にも感動したと言われたんですけど、そういうふうに言われるためにやっていたわけじゃない。と言ったら応援してくれている人には申し訳ないんですが、やっぱり勝つことが僕らの目標ですから。

 特に今年はあそこまで、日程的にもしんどい中で勝っていって(優勝の)目前まで来て、最後の最後に負けたので、本当に悔しかったですし、ああいうふうになったのは僕だけじゃなかった。Tさん(T−岡田)、安達(了一)さんだったり、自分に責任があると思った選手はみんな……。ああいう姿は本当は見せたくないんですけど、あれが正直な気持ちです。本当にチームで喜びたかったですね。「来年こそは」という気持ちは強いです。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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