オリ伊藤光、涙の理由「またこれか」 あと一歩の野球人生…来年こそは必ず

米虫紀子

金子さんの球を受けたくてはい上がった

日米野球では金子(右)とバッテリーを組み、メジャー打線を抑えた。伊藤にとって金子は憧れであり、特別な存在だ 【Getty Images】

――日米野球の第2戦ではシーズン中と同様、金子千尋投手とバッテリーを組みました。金子投手はその時点ではメジャー挑戦も視野に入れていて、日米から注目を集めたマウンドでしたが、リードする立場としても思うところがあったのでは?

 メジャー相手でも特別変えたことはなく、「いつも通りの感覚でいきましょう」とは話したんですが、やっぱりマウンドの硬さも違えば、ボールも違う。実戦からも離れていましたし、普段とは違うなとブルペンから思っていました。僕は金子さんが残留してくれればもちろんうれしいですし、オリックスのみんながそう思っていると思います。でも、そのときはメジャーに行く可能性もあって、僕はメジャーに行っても活躍してほしかったし、活躍する姿が見えていました。

 そういう意味では、ここできっちり抑えてアピールしてほしいなという気持ちもありましたから、複雑といえば複雑でしたね。今まで組んできて、バッテリー賞も取れた仲なので、それを見せつけられる場だなとも思っていました。

――金子投手は5回を3安打3失点。翌日の紙面には「もっと金子さんのすごさを見せたかった」という伊藤選手のコメントがありました。

 その気持ちはありました。短い時間であのボールに慣れろというのは、僕らでもしんどかったですから、ピッチャーは一番大変だったと思います。でも次につながる投球でした。金子さんは、もう一回投げろと言われたら、絶対にいいピッチングをする。いつも受けている僕はそう思いました。

 もちろんその1試合で結果を出すのが僕らの仕事でもあるんですけど、年間通してやるのがプロの野球で、普通は1回で勝ち負けが決まって終わるわけじゃない。ローテーションに入ったら次は全然違う結果が見られる。次は絶対にできる。金子さんも絶対そう思ったと思う。言わないんですけど、あの人は。僕はもうそのへんは分かっているので、代わりに言いました。

――以前、「他のキャッチャーには受けさせたくない」と言っていましたが、やはり金子投手は特別ですか?

 憧れて、1軍に上がって金子さんの球を受けたいと思ってやってきましたからね。他のピッチャーにも、もちろんそういう気持ちはありますけど、特に金子さんは、誰が見ても日本で一番のピッチャーですから。はい上がって、やっとたどり着いた身としては、そりゃあ、他のキャッチャーに投げている姿を見るのは……正直、嫌ですよね(笑)。でも僕が金子さんの人生を決めるわけじゃないので、(FAについては)金子さんが選んだ道で頑張ってほしいなという気持ちです。

選手会長はビールかけの合図ができる

――このオフには選手会長に就任されました。

 自分が若い分、先輩には僕にいろいろ言ってもらえればと思いますし、僕も先輩に相談して、それを後輩に伝えながら、本当にいいチームにしたいなと思っています。いい意味で上下関係なく、全員が1つの方向を向いて戦える集団になれるようにまとめていきたいですね。

――最後に、来シーズンへの思いを聞かせてください。

 今年は優勝目前までいって勝てなかった悔しさを、みんなが味わったので、それを取り返すのが来年です。勝って、「あのときの悔しさがあったから」と言えるような年にしたい。あとは、選手会長はビールかけの合図ができるので、そのチャンスが回ってきたなという気持ちもあります(笑)。ビールかけ、したいですね。そのためには難しいこともたくさんあると思いますが、全力を尽くしてやっていきたいと思います。

伊藤光プロフィール

1989年4月23日生まれ。愛知県出身。明徳義塾高から2007年高校生ドラフト3巡目でオリックスに入団。4年目の11年に初の開幕スタメンマスクをかぶると、徐々に出場試合数を増やし、13年には初の規定打席に到達。今季は規定打席を逃すも137試合に出場し、打率2割5分7厘、3本塁打、48打点。守備ではチームを12球団No.1の防御率に導き、初のゴールデングラブを獲得、躍進の原動力となった。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。大学卒業後、広告会社にコピーライターとして勤務したのち、フリーのライターに。野球、バレーボールを中心に取材を続ける。『Number』(文藝春秋)、『月刊バレーボール』(日本文化出版)、『プロ野球ai』(日刊スポーツ出版社)、『バボちゃんネット』などに執筆。著書に『ブラジルバレーを最強にした「人」と「システム」』(東邦出版)。

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