世界を生き抜くための新戦術発想法 バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 最終回

高島三幸

新戦術「ハイブリッド6」誕生の背景にあった眞鍋監督の考えとは!? 【スポーツナビ】

 リオデジャネイロ五輪での金メダルに向けて、勝利への執念とあくなき探究心で道なき道を切り開いてきた全日本女子バレーボールチームの眞鍋政義監督。その強い思いが、これまでにない画期的な戦術を生み出した。それが、8月のワールドグランプリ(日本ほか)、9月の世界選手権(イタリア)と世界の大舞台で披露された新戦術「ハイブリッド6」だ。「新しいことに挑戦するのは勇気が要る」と認める眞鍋監督が、それでも今までにない新戦術にチャレンジしたのはなぜなのか。眞鍋監督自身がその理由を語った。

シンプルな発想から生まれた「ハイブリッド6」

 先日、世界選手権が終わり、全日本女子は二次予選敗退という結果に終わりました。何度も言っていますが、われわれの最終目標は「2016年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得」。そのためにはどんなことでもする覚悟です。今大会では、ひとりの選手が複数のポジションをこなす新戦術「ハイブリッド6」を試す機会になりました。結果から見ても課題は多いですし、まだまだ突き詰めて進化させなければいけないと思っています。

「新戦術はどのように発想しているのか」とよく聞かれます。「ハイブリッド6」とは、昨年考案した戦術「MB1」の進化系バージョンです。「MB1」とは、2人いるミドルブロッカーを1人に減らし、その分ウィングスパイカーを1人増やして戦う戦術。ミドルブロッカーを2人から1人に減らすこと自体、驚かれた方もいたと思います。基本的に、われわれは勝つための方法をできるだけシンプルに考えます。そのためには、「バレーボール界での常識」を疑うことから始めることが多い。「本当にそれをやる必要があるの?」と自問自答してみると、新しいアイデアが生まれやすいんです。

「ハイブリッド6」も同じです。バレーボールは、シンプルに説明すると「25点を3回先取すれば勝てる競技」です。そのためには、25点を先取できる6人のメンバーをコートに入れればいい。得点力が高い6人の選手を入れればいいのです。
 そうであれば、セッターを除く5人は、必ずしも「ウィングスパイカー3人、ミドルブロッカー2人」とポジションを固定しなくてもいいのではないかと考えました。全員が決定力の高いスパイカーになれば攻撃力は上がる。1人の選手がスパイカーになった瞬間、後はレシーバーやブロッカーになるといった「全員万能型」のフォーメーションが取れればいいわけです。ポジションを固定せず、選手全員がその時々に必要な役目を担えば、どこからアタックが打たれるか分からないので相手チームは翻弄(ほんろう)されます。

 ちなみにハイブリッドとは「掛け合わせる」「組み合わせる」という意味です。「ポジションの概念は払拭(ふっしょく)して、セッター以外はポイントを取る役割を担おう」と選手たちに伝え、シチュエーションに応じてあらゆるフォーメーションに対応できるよう、この名称を選びました。

生き残るために革新的な仕掛けづくりを

チャレンジに歯止めを掛けているものを取っ払い、挑戦することが重要だと眞鍋監督は説明する 【Getty Images】

 もちろん、全員がどのポジションも高いレベルでこなすのは至難の業。それができればとっくに世界中のチームがやっているはずです。スパイクは得意だけどブロックは苦手というように人には得意不得意がありますから、選手それぞれの強みを伸ばし、専門性を高めた方が効率的だという意見が真っ当でしょう。

 メリットがあればデメリットがあることは百も承知ですが、身長や身体能力が他国より劣る日本チームは、他国と同じ戦術を磨いても勝てません。それはデータが物語っていますし、いくら根性があって愚直に練習をしても世界一になるのは無理です。そんな中で目指すのであれば、常識を覆すような革新的な何かを仕掛けるしか道はないと思っています。それはスポーツだけでなく、グローバル社会の中で生き残りをかけるビジネスの世界でも同じではないでしょうか。

 常識や知識、思い込みは時として可能性を奪います。そうならないように、ベテランになればなるほど、チャレンジに歯止めをかけているものを意識的に取っ払って挑戦するしかないのです。最初は失敗してもいい。最終的に、五輪という大本番で新戦術が機能すればいいわけで、それまでの世界級の大会が実験と検証を繰り返す場になります。成功率などの数字とにらめっこしながら「この戦術は世界で通用するのか」「今だけでなく、2年後の五輪では使えるのか」などとスタッフで話し合い、課題を出して次の大会で再び試す。そうやってわれわれは新戦術の精度を高めていきます。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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