世界を生き抜くための新戦術発想法 バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 最終回

高島三幸

歴史が物語る新戦術の必要性

眞鍋監督いわく「共通認識を持っていれば多少の失敗でもすぐに前を向いて進むことができる」という 【Getty Images】

 新しいことに挑戦するのは勇気が要ります。でも私が迷いなく新戦術にこだわり続けられるのは、バレーボールの歴史が物語っていることが大きい。日本は男女合わせると、五輪で3つの金メダルを獲得しています。1964年の東京五輪では“東洋の魔女”と呼ばれる当時の全日本女子の故大松博文監督が「回転レシーブ」という誰もが驚いた技を生み出して守備力を高めました。72年のミュンヘン五輪では、全日本男子の故松平康隆監督が「時間差攻撃」を開発し、相手チームを翻弄させました。76年のモントリオール五輪では、全日本女子の故山田重雄監督が、速い平行トスからのスパイクで相手を惑わす「ひかり攻撃」(新幹線のひかりから名付けられた)を生み出し、優勝候補のソ連(現ロシア)を下しました。今ではどの国も使う技ですが、いずれも新戦術が金メダルへ導く大きな力になったことは確かです。

 さらに言えば、00年までの男子バレーは、「二人制サーブレシーブ」「リードブロック」「バックアタック」など、新しい技を生み出した国が五輪で金メダルを獲得しています。96年のアトランタ五輪男子バレーでは、「メンバー全員の身長が2メートル」という長身をそろえたオランダが金メダルをつかみ取った。これも他国には真似できない立派な戦術だと思います。

 00年以降、ラリーポイント制などルール改定も影響しているためか新戦術は登場しませんが、こうした歴史的背景を見ると、日本はやはりどの国もやっていない戦術に挑戦する必要があると思っています。過去の成功体験はそのまま真似ても成功しませんが、歴史には学ぶべき要素、ヒントになることがたくさんあるのです。

認識の共有がリスクを軽減させる

 新戦術の挑戦には失敗というリスクがつきものです。われわれがそれを試す世界級の大会はテレビで放映されるため、挑戦しつつもやはり結果にこだわってしまいます。
 その中で最も大事で、しかしながら難しいのは、全員の「感情のコントロール」です。失敗した時に落ち込むのか、あるいは反省するのか、この2つは似て非なるもの。反省には先に続く道がありますし、世界一になるという目標と向上心があるからこそ反省するわけです。

 しかし中には、自分のミスで落ち込んでしまったまま、なかなかはい上がれない選手もいます。負のスパイラルを招き、スランプに陥る選手もいる。そんな感情のコントロールが苦手な選手には、コーチ陣などのスタッフが全力で支え、反省から課題へつなげるように促します。ネガティブな感情を切り離すようにするのです。これも普段から選手とコーチの間に十分なコミュニケーションが取れていなければ、なかなかうまくはいきません。

 失敗が続くと、チーム全体のモチベーションが下がる場合もあります。一人でも「この戦術でうまくいくのかな……」と不信感を抱くと、途端に軸が崩れ、チーム全体のモチベーションが下がってしまう。それを防ぐためにも「われわれは五輪で世界一になるんだ」という強い認識を普段から共有しておかなければいけない。認識の共有がしっかりできていれば、多少の失敗をしてもすぐに前を向いて進むことができるのです。

「ハイブリッド6」はまだまだこれからです。進化させるために必要なのは、選手もコーチも監督も勉強と反省を繰り返すことでしょう。視野を広く、柔軟なアイデアを持って、果敢にチャレンジしていきたいと思っています。リオデジャネイロ五輪では「非常識を常識」に変えた全日本女子チームの姿をぜひ見ていただきたいです。

 本連載はこれを持って最終回となりますが、今後とも全日本女子バレーボールチームに温かい応援をよろしくお願いします。

<了>

プロフィール

眞鍋政義(まなべ まさよし)
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪、13年のワールドグランドチャンピオンズカップで、それぞれ銅メダルに導く。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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