側近データマンが語った“眞鍋流”=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第10回
眞鍋監督の代名詞「データバレー」を支えるチーフアナリストの渡辺氏から見た眞鍋監督とは? 【スポーツナビ】
では、そんなリーダーに率いられたメンバーから、指揮官の姿はどのように映っているのだろうか。今回と次回(第11回、9月掲載予定)では、全日本女子チームで活躍する二人のスタッフに登場してもらい、眞鍋監督の手腕やエピソードについて聞いた。
まず登場するのは、チーフアナリストを務める渡辺啓太氏。柳本晶一前監督時代から、データ分析を任されるスペシャリストだ。眞鍋監督の代名詞「データバレー」を支えるデータマンが見る眞鍋監督とは?
数字は一目で見て分かる形にする
ミーティングなど限られた時間内で的確なデータを伝えなければいけないので、選手たちにすぐに分かるような見せ方を常に考えています。私は前監督の柳本さんの頃から、全日本女子チームでのデータ分析をしていますが、柳本さんからは「データを数字だけで見せるな」と言われていたんです。「数字だけ見せても頭に残りにくい。特に女子は」と。「そのデータは何が言いたいのか、ときにはグラフやイメージカットを用いて、選手たちが一目で分かるような形で提供しなさい」とも指導されました。それが土台になって、監督やコーチには詳細な数字データを見せますが、選手には大部分を削ぎ落して精選し、分かりやすい情報を提供するようにしています。
――選手にデータを見せるまでの手順を教えてください。
まず、私が現状の詳細データをスタッフにプレゼンするミーティングを開きます。サーブ、スパイク、レシーブといった各領域のコーチがそのデータを持ち帰って、さらにどんなデータが必要かを洗い出して再び持ち寄る。多いときで、そのミーティングを6〜7回繰り返すんです。最終的に選手にどんなデータが必要で、どんな風に見せるかを決めます。
会社でいえば、情報を届ける相手の選手は、私にとってのクライアント。内部でデータについてのミーティングを重ね、最終的にクライアントに提出するための効果的な資料に仕立てていくイメージです。クライアントを満足させるためには、現状を一目で把握でき、効果的なプレーにつながる情報をいくつか用意すること。最初は、選手の意見をヒアリングしつつ、彼女たちが勝つために何が必要なのかを探りながらデータを作っていきましたね。
眞鍋監督に感じる“凄まじさ”
直感で思いついたことを「データで検証してみたい」と急に頼まれることも多いので、私は情報の引き出しをきれいに整理して、求められるものをすぐ提出できるような準備をすることが大事になっています。
加えて、眞鍋監督はコーチ分業制を採用し、各コーチからのデータやビデオのニーズもあるため、扱うデータは膨大な量です。今は私ひとりではなく情報戦略チームを結成して取り組んでいますので、手分けして分析していますが、求められる情報量やスピードも半端ないです。ときどき「勘弁してください」と思うこともあるぐらい(笑)。大変ですが、「必要とされている」と感じるのでモチベーションは上がります。それは、眞鍋監督が仕事を任せてくれて、専門の仕事に集中させてくれているから。昔は、練習中はデータの仕事はほとんどできませんでした。私もコートの外でボール拾いをするのが常でしたから。
――渡辺さんから見て眞鍋監督はどのような監督ですか?
まず思ったのは、眞鍋監督の勝つための執着心と準備が“凄まじい”こと。一切妥協がありません。「勝負は細部に宿る」と言いますが、細かい準備をしているからこそ、チームとしての礎が固まり、はじめて海外チームと戦えるのだと納得します。だって、身長やパワーを見ても、日本は海外チームより劣っているのは明らか。それを乗り越えて勝たなければいけないので、思いつく限りの準備を彼は試みているんだと思います。技術はもちろん、チームの結束力を高めるなど、本番までに自分が“不安要素”だと思うものをできるだけつぶし、確信を高めていく。「準備の眞鍋」と言われるほどで、私もその影響を大きく受けました。