「週末だけのチーム」の知られざる舞台裏=J2・J3漫遊記 Jリーグ・U22選抜

宇都宮徹壱

J−22は未知数ゆえに「やりがいを感じる」

J−22監督の高畠勉。未知数のチームを率いることにやりがいを感じるという 【宇都宮徹壱】

 翌日、「これから藤枝に向かう」というJ−22監督の高畠勉に新横浜駅近くのホテルで話を聞くことができた。前日まで続けていた各クラブとの調整の結果、集まった16人を責任をもって一時的に預かり、2年後のリオ五輪につながる人材を育成する、というのが高畠のミッションだ。日曜日の試合に向けて、毎週金曜日には選手たちより先に集合場所に到着しているという。まずは1クール目を終えて、5勝0分6敗の7位という結果について高畠に総括してもらった。

「一巡して、実力差がそのまま順位に表れていますね。下位チームには勝っているんだけど、上位チームには負けている。しかも勝っている試合は先制していて、逆に負けている試合は先制されています。ゲーム勘については、経験不足の部分が勝負どころでの甘さにつながっている部分はあるかなと。逆転できないのも、ずるずると失点を重ねてしまうのも、個々の能力よりもチームとしての実力不足だと思います。選抜チームという意味では(現在の順位は)妥当なところでしょうね。ただ、選手のポテンシャルについては、高いものがあると思っています」

 高畠は91年に富士通に入社以来、当時日本サッカーリーグ(JSL)所属だった富士通サッカー部、そして川崎フロンターレ一筋のキャリアを送ってきた。95年に現役を引退すると、育成部コーチ、トップチームのコーチを経て、2度にわたって川崎の指揮を執ったこともある。とはいえ、周囲が評価したのは、トップチームよりも育成面での実績であった。川崎の育成・普及部長だった13年、高畠は協会のU−17日本代表コーチ兼U−18日本代表アシスタントコーチに就任。そして今年、川崎での職を辞し、J-22の監督に就任した。退路を断って、未知数のチームを率いることに不安はなかったのだろうか。

「原(博実)技術委員長からお話を伺って、非常に面白い試みだと思いましたね。長年、Jクラブのトップチームにも携わってきましたが、サテライトがない中で、非常に能力が高い選手がいても、18歳から22歳までの伸び盛りの時期に勝負の場がないことを痛感していました。もちろん、新しくできるJ3に22歳以下の選抜チームが参加するには、難しい部分もあるとは思っていました。それでも、やってみないと分からないから、まずはトライしようと。非常にやりがいを感じましたので、(監督就任を)引き受けました」

J−22は今後も続いていくべきなのか?

リオ五輪世代の強化としてスタートしたJ−22。この試みの是非が明らかになるのは2年後だ 【宇都宮徹壱】

 実際に選抜チームを率いてみて、苦労するのはどんなところだろうか? まず気になるのが、ポジションのバランスである。所属チームでベンチ入りしない、現在21歳以下の選手という二重の縛りの中で、当然ポジションによっては、人材が足りているところと足りていないところがあると思うのだが。

「そうですね。ウチは4−2−3−1でやっているんですが、中盤の選手はわりと足りています。センターバックについても結構います。逆に足りていないのは、センターFWと両サイドバックですね。特に左利きのサイドバックというのは、絶対数が限られていますから、ボランチの選手をサイドバックで起用するケースもあります。あと、ウチが16人でやっているのは、できるだけ全員の選手にプレーさせたいからです。この年代で真剣勝負の場で複数のポジションを経験することも非常に有益だと思っています」

 一方で気になるのが、選手の体力的な負担である。金曜集合、土曜練習、日曜試合、というサイクルは、なかなか厳しいものがあるのではないか。高畠の答えは「確かに大変だとは思いますが、移動やタイトなスケジュールにも慣れてきていますし、いい成長の場になっていると思います」というものだった。

「確かに、夜11時に合流する選手もいて大変なんですが、そこは若さなのか次の日にはしっかり練習していますし、コンディション的に重たそうな選手もいません。もちろんこちらとしても、十分な栄養と休養を確保するように心がけていますが、これまで選手のコンディショニング自体については、まったく問題ないですね。みんなタフに成長していますよ」

 さて、まったくの手探り状態からスタートしたJ−22だが、果たして今後も続いていくのだろうか? 高畠自身は「運営的な面がクリアになれば今後も続けるべきだと思います」と、その将来性についても手応えを感じている様子。しかし一方で、「本当は、各クラブがセカンドチームを持つのが理想なんですよね。現状では難しいので、こういった形になっていますが」と、クラブ監督経験者ゆえの本音も語っている。確かにその通りだと思う。リオ五輪出場に向けて、この世代の選手に実戦経験を積ませたいという意図は非常に理解できる。が、その場が果たしてJ3リーグであるべきだったのかという点については、今でも納得できずにいる自分がいる。それでも、この試みの是非が明らかになる2年後までは、しっかりと見守っていくことにしたい。

<文中敬称略>

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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