今でもカメルーンとの交流が続く中津江村 特命全権大使が訪れる人口900人の村

江藤高志

3戦全敗のカメルーンを応援する日本の村

W杯ブラジル大会を3連敗で終えたカメルーン代表。しかしそんな彼らを地球の裏側で応援し続けている日本の山村があった 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)ブラジル大会、2連敗で迎えたカメルーンのグループリーグ最終戦は、開催国ブラジルとの難しい試合となる。

 ゴール数が多い今大会にあり、無得点で連敗してしまったカメルーン代表は、一矢報いようと積極的に試合を始める。浦和レッズでの監督歴を持つフォルカー・フィンケ監督はこの大一番で、今大会初出場の3選手を先発として抜擢(ばってき)。その一方でケガのサミュエル・エトーや、クロアチア戦でチームメートとの小競り合いを演じてしまったブノワ・アス=エコトらを先発から外し、フレッシュなメンバーで試合に臨んだ。

 そのカメルーン代表の立ち上がりは上々だった。開催国を相手に一泡吹かせようと躍動する選手たちは、17分にネイマールの先制点を許したあとも戦う姿勢を失わなかった。26分に今大会初ゴールをジョエル・マティプが決めるとさらに攻撃的な姿勢を加速させた。

 しかしホームの声援を受けたブラジルの前に徐々にペースダウンすると、結果的に4失点。3戦全敗で大会を終えることとなった。内紛が表出し、守備が崩壊して3試合で9失点3連敗といいところのないカメルーン代表を、それでも地球の裏側から応援する村があった。

 それは、人口1200人あまりの過疎の村を舞台にした夢物語だった。日韓が共催した2002年のW杯において、大分の山村がカメルーン代表の合宿地に決定。そのサプライズにカメルーン代表の大遅刻が加わり、日本中の多くの人に「中津江村」の名前を知らしめた。

 坂本休(やすむ)村長(当時)はプライムタイムのニュース番組に出演するなどし、その実直な人柄も加わって一躍時の人となる。個人的な話で恐縮だが、大分県中津市出身の筆者は、自己紹介時に故郷の地名を口にすると今でも結構な割合で(とは言っても10人に1人もいないが……)、「あのカメルーンの?」と言われ続けてきた。

 福沢諭吉を輩出し、黒田官兵衛孝高が築城した中津城を抱える中津市もそれなりに大きな街なのだが、世界を舞台にするカメルーン代表の知名度には勝てない。そんな中津江村とカメルーン代表との今の関係はどうなっているのだろうか。

大統領直々に、特命全権大使に訪問を促す

マナウスでの坂本さん 【写真提供:不屈のライオンの会】

「中津江村」という村名は実は消滅の危機にあった。2005年に実施された日田市との合併の際に、まったく別の地名になる予定だったのである。ただ、あのカメルーン代表を受け入れたという事実の重さと、それによる「中津江村」のネームバリューが認められ、独立した地名としてその名を残すこととなる。

「そういう点でもカメルーン代表には感謝しないといけないですね」と話すのはカメルーン代表を受け入れた鯛生スポーツセンターに勤務する津江みちさんだ。津江さんは、ブラジルのマナウスで6月18日(現地時間)に行われたカメルーン対クロアチア戦の応援のため、坂本休元村長とともに現地に赴いている。出国に先立つ16日には「不屈のライオンの会」が主催して壮行会が行われるのだが、この席上に在カメルーン日本大使館の新井勉特命全権大使の姿も見られた。

 ここでまず読者の頭に浮かんだ2つの疑問に答えたいと思う。

 1つが「不屈のライオンの会」である。これは02年からカメルーン代表を応援してきた中津江村の村民が、14年ブラジルW杯を契機に今年1月に結成した団体。現在900人ほどに減ってしまった中津江村の住民は自動的に会員登録されている。会員になることで何かの特典や負担が発生するわけではないが、独自のホームページが開設されており、広く会員を募集している。

 この壮行会になぜ、在カメルーン日本大使館特命全権大使が出席しているのか。どうやら02年以降の在カメルーン日本大使は、カメルーンのポール・ビヤ大統領から直々に「一度、中津江村に行きなさい」と言われているという。そして「大統領に限らずカメルーンの要職に就く人たちが大使に、中津江村訪問を勧めているらしいんです」と話すのは、02年当時鯛生スポーツセンターの所長として芝の管理に全力を尽くしていた長谷俊介さん。このエピソードが示すように、中津江村とカメルーンは今でもその絆を失ってない。

 新井大使の件はもちろん、12年にカメルーン代表合宿受け入れ10周年記念式典が行われた際には、駐日カメルーン大使館から一等参事官が訪村し「中津江村はカメルーンの領土です」というスピーチを行ったという。これはつまり「カメルーンは中津江村のことを忘れないですよ」という意思表示であり、実際に13年に行われた鯛生金山(中津江村にある観光スポット)30周年記念行事には駐日カメルーン大使館から特命全権大使ピエール・ゼンゲ閣下が村を訪れている。

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著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

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