韓国“史上最強”チームが衝撃の敗戦=「海外か国内か」論争で窮地に立つ

慎武宏

アルジェリアに敗れるという衝撃

勝ち点3を考えていたアルジェリアに対し、黒星を喫した韓国。韓国国内にも衝撃が走った 【写真:ロイター/アフロ】

 ワールドカップ(W杯)グループリーグ第2戦で、アルジェリアに2−4の敗北を喫した韓国が揺れている。

「韓国サッカー、ぼう然自失」(『聯合ニュース』)、「凄惨(せいさん)に崩れたホン・ミョンボ号」(『韓国日報』)、「韓国、伏兵アルジェリアに残酷敗、16強赤信号」(ネットニュース『OSEN』)、「砂粒のような組織力、韓国型サッカーとはこんなものだったのか」(サッカーネットメディア『SPORTAL KOREA』)、「16強へのいけにえだった相手に大敗」(サッカーネットメディア『FOOTBALLIST』)

 アルジェリアは組分け抽選会直後から対決直前まで、グループHで勝ち点3が計算できると見込まれていた相手だっただけに、そのショックと衝撃は大きい。

 最も批判の矢面に立たされているのは監督であるホン・ミョンボだが、選手たちも厳しい指摘の声から逃れられない。

 例えば先制点を許したホン・ジョンホとキム・ヨングォンは、「センターバックデュオの崩壊が大敗の元凶」とされ、2試合連続シュートゼロに終わったパク・チュヨンに関しては「守備的ストライカー」「透明人間」「失踪状態」と非難の声が相次いでいる。元韓国代表でかつてJリーグでもプレーしたことのあるコ・ジョンウンも「パク・チュヨンを信じたことが失敗だった」と酷評しているほどだ。

“史上最強”と言われていた韓国代表

 当の選手たちもショックを隠さない。

 キ・ソンヨンは「精神的に衝撃を受けた」と語り、イ・チョンヨンは「なぜこのよう結果が出たのか分からない」とコメント。キャンプテンのク・ジャチョルは、「前半は選手として恥ずかしいばかりだった」と肩を落とした。

 大会前までは韓国代表の「核心メンバー」と呼ばれた“海外組”たちが非難を浴び、彼らも苦悶(くもん)の表情を浮かべているのだ。

 そもそも今回の韓国代表は、一部で“史上最強”と見る向きもあった。その根拠のひとつになっていたのが、“海外組”の数だった。ベスト4進出を果たした2002年大会では7名(ヨーロッパ2名、Jリーグ5名)、06年大会では7名(ヨーロッパ5名、Jリーグ2名)、前回の南アフリカ大会ではヨーロッパ6名、Jリーグ2名、中東、中国1名だったが、今回のブラジル大会に挑む韓国代表の海外組は史上最多の17名。しかも、そのうちイングランドやドイツでプレーするヨーロッパ組が10名となっていた(日本3名、中国3名、中東1名)。

 10年南アフリカW杯直後、韓国代表を指揮したホ・ジョンム監督(現KFA=韓国サッカー協会副会長)は、「韓国サッカーがさらに発展するためには、選手たちが海外で経験を積むことがとても重要だ」と語っていたが、その期待通りに選手たちが海外に飛び出すようになったとも言える。

 韓国人エージェントも言っていた。
「ファンやメディアは特に欧州進出を賞賛し、選手たちも韓国代表よりプレミアリーガーになりたいという者が増えた。パク・チソンらの成功で欧州クラブの韓国選手を見る目も変わり、若くて可能性がある選手を取るようになった。近年はソン・フンミンのように欧州で初めてプロになる者も増えている」

海外組による監督批判が波紋を呼ぶ

 もっとも、待望していた海外組の増加が韓国サッカー界に新たな悩みの種を作ることにもなった。

 例えば10年7月から11年末まで韓国代表の指揮を執ったチョ・グァンレ監督時代。パク・チュヨンをはじめ、当時はまだ所属クラブで出番に恵まれなかったク・ジャチョル、ソン・フンミン、チ・ドンウォンなどを試合勘が鈍っていても起用したため、ファンから「韓国代表が欧州組のトレーニングセンターと化している」と揶揄(やゆ)された。

 それどころか招集されるも起用されなかったソン・フンミンの父親が、「使わぬなら呼ばないでほしい」とチョ・グァンレ監督とKFAに公然とかみつき、当時スコットランドでプレーしていたチャ・ドゥリが自身のSNSで「移動負担」を理由に代表引退をほのめかしたこともあった。

 そのチョ・グァンレとは対照的に、Kリーグで調子の良い選手を中心にチームを編成した前任者のチェ・ガンヒ監督時代には、SNSがキッカケで大騒動が起きた。

 予選に招集されなかったキ・ソンヨンが自身のSNSにチェ・ガンヒ監督批判を示唆する書き込みを多数していたことが発覚。これを受けてチェ・ガンヒ監督も、「一部の海外組が代表の雰囲気を壊した。食事時間に自分たちだけ集まり食事するのは理解できるが、何か線を引き、代表の雰囲気をおかしくした」と発言したことで大きな波紋を呼んだ。

 というのも、以前よりも薄れているとはいえ、「長幼の序」を重んじる儒教的価値観が今も社会全体に浸透している韓国において、選手の監督批判は言語道断の行為。代表チームは「秩序なき集団」として国民からの信頼も大きく損なうことになった。

 その引き金を引いたのが、待望していた海外組だったのだから皮肉じみてならなかった。憶測が憶測を呼び、海外組と国内組の不仲説まで飛び出したほどである。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている。

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