韓国“史上最強”チームが衝撃の敗戦=「海外か国内か」論争で窮地に立つ

ホン・ミョンボが取り繕うも溝は広がる

「海外組か国内組か」で揺れる中で監督に就任したホン・ミョンボ。しかし、結果を出せないことで非難の矢面に立たされている 【写真:ロイター/アフロ】

 だからこそ、昨年7月に韓国代表監督に就任したホン・ミョンボは、チームの秩序と国民からの信頼を取り戻そうと着手した。キ・ソンヨンらには謝罪を促し、選手たちには代表招集期間中のSNSを自粛させた。

 韓国では海外でプレーする選手を「海外派」、Kリーグでプレーする選手を「国内派」と呼ぶが、ホン・ミョンボはメディアに対して「今後は海外派、国内派と区分けするような書き方や表現はやめてほしい。チーム運営に支障をきたすし、そもそもヨーロッパでプレーする選手たちも元はKリーグ出身だ。選手たち(海外派、国内派)を区別することには意味がない」と、派閥争いを誘導しがちな言い回しをやめてほしいと強調したほどだった。

 皮肉じみていたのは、そのホン・ミョンボのやり方が結果的に海外組と国内組の実力差を明白にしてしまったことだろう。国内組中心で挑んだ初陣の東アジアカップでは3位に終わったが、ヨーロッパ組を招集したブラジル戦やスイス戦では健闘が光った。国内組20名とJリーグ組2名、中国1名の編成で臨んだ今年1月の米国遠征では、メキシコや米国に敗北したが、海外組を総動員した3月のギリシャ戦ではアウェーでの勝利をもぎ取った。海外組が加わることで、戦力的にも結果的にも代表チームにプラスがもたらされることは、誰の目にも明らだった。

敗戦の原因を海外組に押し付けるメディア

 ただ、その海外組が所属クラブで目立った活躍ができていないことが、新たな波紋を呼ぶ。「所属クラブで試合に出場してしっかり競争力を見せる選手を選ぶ」としたホン・ミョンボだったが、最終メンバーにはパク・チュヨン、ユン・ソギョン(QPR)、チ・ドンウォン(アウクスブルク)、パク・ジョンウ(広州富力)、キム・チャンス(柏レイソル)など、所属クラブで結果を出していないロンドン五輪組を多数招集。
 その一方で、Kリーグで活躍していたイ・ミョンジュらを招集せず、Kリーグからはわすが6名しか選ばれなかったことや、故障した海外組を事前に帰国させて治療とリハビリに専念させるやり方が、「海外派と国内派を区分することはないというのはウソだった」とやり玉に挙がった。

 熱心なKリーグ・ファンたちの間では、「代表監督に無視されたKリーグ。今回の韓国代表は韓国を代表するものではない。海外派を不分別に信頼する監督と、特権意識に溺れたスター気取りの集まり」「ホン・ミョンボ号がブラジルで勝ってもKリーグの何のためにもならない」と冷めた声も出たほどだった。

 それだけに今回の敗戦の原因を海外組に押し付けるような意見も出ている。一部のメディアでは、「惨敗の中で光ったキム・シンウクとイ・グノの孤軍奮闘」と題し、「海外派に劣らない実力を見せた。パク・チュヨンら海外派の影に隠れた2人が、韓国サッカーの新しい希望に浮上した」と報じている。

 もっとも海外組が総じて不調だったわけではない。3失点後に反撃の狼煙(のろし)を上げたのはチーム最年少の海外組であるソン・フンミンであり、ク・ジャチョルも追加点を決めている。海外組が結果を残しているのも、また事実なのである。

 それが分かっていても“海外組”に厳しい目が向けられるのはある意味、期待の大きさの表れとも言えるが、今回のアルジェリア戦の敗北は「海外組か、国内組か」という論争だけでは終わらないような気がしてならない。すでに韓国メディアの中では、指揮官ホン・ミョンボの采配やチーム運営方法が非難の的になっているし、KFAにも厳しい目が向けられている。
 某スポーツ新聞のベテランサッカー記者も、自身のSNSでこんなつぶやきを残した。
「KFAは政治論理でホン・ミョンボを過信し、ホン・ミョンボは自分の判断力とパク・チュヨンを過信した。熟していない人、能力が検証されていない人を使うのは危険だ。W杯は、言うことをよく聞く子供たちを持つガキ大将のための舞台ではない」

 ベルギーとのグループリーグ最終戦が残ってはいるが、その結果次第ではさらなる激震が走りそうな気配すらある。韓国サッカーは今、ついに窮地に立たされているのだ。

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著者プロフィール

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で2002年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『祖国と母国とフットボール』『イ・ボミはなぜ強い?〜女王たちの素顔』のほか、訳書に『パク・チソン自伝』など。日本在住ながらKFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)に記者登録されており、『スポーツソウル日本版』編集長も務めている

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