五輪金の監督に教わった「準備の鉄則」=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第8回
勝つためには入念な準備が大事だと眞鍋監督は語る 【坂本清】
リーダーに周到な準備が必要だという発想はどこから生まれたのか? また、2012年ロンドン五輪の銅メダル獲得への“準備”につながった、眞鍋監督も尊敬するある名将の金言とは? 眞鍋監督が明かした。
大事にしてきたフォロワーシップ
例えば、実績を残したカリスマ性のあるリーダーなら、“独裁力”とも言える強烈なリーダーシップを発揮することで、メンバーが一致団結して付いていくでしょう。一方で、強いリーダーシップがなくても、フォロワーシップ(メンバーがリーダーを補助していく機能)をうまく使いながら、チームをまとめていくタイプもいます。私自身はどちらかと言えば、後者のタイプに近いと思います。私一人の頭で考えられるアイデアなど知れていますから、コーチ陣に役割を与えて任せた方が効力は大きくなるはずです。
互いの信頼関係を築くことさえできれば、コーチやスタッフ、選手たちは必死になって自分のやるべきことに取り組み、リーダーを支えようとする構図ができ上がっていく。信頼関係は、日頃のコミュニケーションや、スタッフに任せてチャレンジさせる度量、的確な指示による成功体験の積み重ねなどで築くことができます。私はこの辺りを大事にしながらチームを率いてきたような気がします。
シミュレーションが可能にした瞬時の判断
「ポジションが人を育てる」とはまさにその通りで、常に現状を把握しながら、瞬時に攻撃パターンを判断しなければいけないセッターというポジションだったからこそ、事前に研究する習慣が身に付きました。相手チームのブロックの分析や、選手の癖・性格などを見抜くのもその一つです。
時間さえあれば、対戦相手がプレーしているビデオを繰り返し見ながら、選手の癖を一つ一つ探していました。すると、わずかな肘の動きなどで、次にどう動くかが見えてくる場合があります。それを一つの判断基準として頭にインプットしておく。また、実業団の対戦チームのエースは、全日本チームで仲間になることが多いので、全日本合宿などで多くのコミュニケーションを図って、選手の性格などをインプットしていました。セッターは“コートの中のブレーン”的な役割なので、こうした情報収集なしでは、メンバーに的確な指示を出すことができません。
監督になった今も、試合直前には必ず最悪の状態を考えます。つまり、シミュレーションです。「A選手のプレーが崩れてきたら、早めにB選手に交代しよう」「この点差のままでC選手に2回目のサーブが回ってきたら、D選手に代えよう」など、あらゆる最悪な場面を想定し、その対処法を頭の中でシミュレーションしておきます。
だから私は、メンバーチェンジの判断も迷わず早いですし、焦りもしません。リーダーが少しでも焦って迷い、ほんのわずかでも決断が鈍れば、メンバーは不安になりますし、ジャッジが遅すぎて手遅れの場合もあります。判断力や決断力を高めるにはもちろん経験も大事ですが、事前のシミュレーションが欠かせないのです。
そうはいっても試合中は興奮しますから、冷静に判断できないことがあるかもしれません。それも含めて、事前にベンチのコーチ陣に伝えてあります。「自分が興奮して、この場面で選手交代の指示を忘れていたら言ってくれ」と(笑)。これも一つの準備なのでしょう。