五輪金の監督に教わった「準備の鉄則」=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第8回

高島三幸

勝つためには入念な準備が大事だと眞鍋監督は語る 【坂本清】

 9月の世界選手権(イタリア)に向けて始動した全日本女子バレーボールチームの眞鍋政義監督。勝利を勝ち取るべく戦略や練習計画など抜かりなく準備する指揮官を、周囲は“準備の眞鍋”と称する。
 リーダーに周到な準備が必要だという発想はどこから生まれたのか? また、2012年ロンドン五輪の銅メダル獲得への“準備”につながった、眞鍋監督も尊敬するある名将の金言とは? 眞鍋監督が明かした。

大事にしてきたフォロワーシップ

 チームをまとめ、結果を出すリーダーになるためには、さまざまなスキルが必要です。コミュニケーション能力、マネジメントスキル、決断力、戦略を立案する力、交渉力、洞察力、発想力など、挙げればきりがありません。これらすべてを磨くのは厳しいですが、リーダーにはそれぞれタイプがあって、その人の個性や得意分野を生かせば、独自のリーダーシップが発揮されるのではないかと思います。

 例えば、実績を残したカリスマ性のあるリーダーなら、“独裁力”とも言える強烈なリーダーシップを発揮することで、メンバーが一致団結して付いていくでしょう。一方で、強いリーダーシップがなくても、フォロワーシップ(メンバーがリーダーを補助していく機能)をうまく使いながら、チームをまとめていくタイプもいます。私自身はどちらかと言えば、後者のタイプに近いと思います。私一人の頭で考えられるアイデアなど知れていますから、コーチ陣に役割を与えて任せた方が効力は大きくなるはずです。

 互いの信頼関係を築くことさえできれば、コーチやスタッフ、選手たちは必死になって自分のやるべきことに取り組み、リーダーを支えようとする構図ができ上がっていく。信頼関係は、日頃のコミュニケーションや、スタッフに任せてチャレンジさせる度量、的確な指示による成功体験の積み重ねなどで築くことができます。私はこの辺りを大事にしながらチームを率いてきたような気がします。

シミュレーションが可能にした瞬時の判断

 私はリーダーとして成長するために、現役時代から大切にしてきた強みがあります。それは、どんな試合であろうと「勝つための準備を怠らない」ことです。周囲からは“準備の眞鍋”と言われるほど、準備には余念がありません。
「ポジションが人を育てる」とはまさにその通りで、常に現状を把握しながら、瞬時に攻撃パターンを判断しなければいけないセッターというポジションだったからこそ、事前に研究する習慣が身に付きました。相手チームのブロックの分析や、選手の癖・性格などを見抜くのもその一つです。

 時間さえあれば、対戦相手がプレーしているビデオを繰り返し見ながら、選手の癖を一つ一つ探していました。すると、わずかな肘の動きなどで、次にどう動くかが見えてくる場合があります。それを一つの判断基準として頭にインプットしておく。また、実業団の対戦チームのエースは、全日本チームで仲間になることが多いので、全日本合宿などで多くのコミュニケーションを図って、選手の性格などをインプットしていました。セッターは“コートの中のブレーン”的な役割なので、こうした情報収集なしでは、メンバーに的確な指示を出すことができません。

 監督になった今も、試合直前には必ず最悪の状態を考えます。つまり、シミュレーションです。「A選手のプレーが崩れてきたら、早めにB選手に交代しよう」「この点差のままでC選手に2回目のサーブが回ってきたら、D選手に代えよう」など、あらゆる最悪な場面を想定し、その対処法を頭の中でシミュレーションしておきます。

 だから私は、メンバーチェンジの判断も迷わず早いですし、焦りもしません。リーダーが少しでも焦って迷い、ほんのわずかでも決断が鈍れば、メンバーは不安になりますし、ジャッジが遅すぎて手遅れの場合もあります。判断力や決断力を高めるにはもちろん経験も大事ですが、事前のシミュレーションが欠かせないのです。

 そうはいっても試合中は興奮しますから、冷静に判断できないことがあるかもしれません。それも含めて、事前にベンチのコーチ陣に伝えてあります。「自分が興奮して、この場面で選手交代の指示を忘れていたら言ってくれ」と(笑)。これも一つの準備なのでしょう。

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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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